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作品 - 20050912_883_507p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


「サヨナラ」の言葉

  ミドリ



冬の西日が射し込む病室で
みっちょんが見舞いに来てくれた

「朝一番の新幹線で
 大阪から来たんだよ
 お見舞いには何がいいか
 オカンと喧嘩しちゃった」

そう言って笑ったみっちょんに
サイドテーブルの林檎を掴んで
投げた

「40度近くも
 熱出たそうやね」

器用に果物ナイフを回しながら
涙声で言った

親の監視を逃れて
会っていた学生時代が懐かしく
これが同じふたりだと
思えないくらいの
今があった

自称 非行OLのみっちょんは
一週間の有給を取って
靴下とパンプスを脱ぎ
ベットの上にあがり込んで
「何しようか?」
なんて言ってる

「あした東京タワーに行ってくる」
クリスマスの準備の始まった
街のイリュミネーション
僕らはサンタクロースの
ラッピングされた人形みたいに
横になって
テトリスみたいに
体位を変えた

学生の頃は
朝までスーパーファミコンをして
東京の会社に
内定の決まった朝も
ふたりのマリオは
クッパと闘っていた

白いウサギのポシェットから
みっちょんは
東京のアルバイト求人誌の
広告の切り抜きを取り出し
「へへへ」と
気味の悪い声で笑い
「あんたと生きたいの」と
言った

「手術せにゃイカンだろ?」と
体を通る
カテーテルの熱量が増す
みっちょんの看護婦さん宣言に

僕は「サヨナラ」の言葉を
少しずつ
探し始めていた

文学極道

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