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作品 - 20050830_609_464p

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サマーソフト

  一条

店内は、静かな音楽が流れているかのような場景であったが、実際は誰の耳にも音楽など聞こえていない。テーブルには、赤と白の格子模様のごわごわした布地のテーブルクロスが掛けられ、店の正面口の方向から、客の出入りのたびにそっと潜り込む風に、テーブルクロスの垂らされた一部分が規則正しく揺れ動かされている。男はいなかった。テーブルには、食べ残された料理の皿が無造作に、あるいは規則的に並べられ、女は男の不在について少し前から考え始めた。店内には静かな音楽が流れているかのような雰囲気のみが漂い、男は正面の壁に掛けられた絵画を眺めながら、自分の不在については特に何も思わず、女の話に相槌でも打とうかと考え始めたのは、今よりも数時間も前のことであるが定かではない。テーブルには、赤と白の格子模様のテーブルクロスが掛けられ、テーブルから垂らされた一部分が風に揺れ動き、数時間前もしくは数分前に確かにそこに男と女が座っていた。それは、ほんの数秒前の出来事かもしれないが、数分後には誰の記憶の中にもない。

文学極道

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