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作品 - 20050826_509_441p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


舞ちゃんのこと

  ミドリ



舞ちゃんは
しののめ高原鉄道に ひとりで乗っていた

かわさきにいた頃から 白血病で
彼女をあいする男はみな
無口でなければならなかった

そして一緒にねむる時は
ミッソーニのパジャマを着て
クマのプーさんの絵本を
ていねいな物腰で
朗読しなければならなかった

もう明日の朝には
舞ちゃんの魂は
この世を
さすらってしまうかもしれないのだ

「本当に会いたい人とは
 ついに会えなかった・・」
というのが舞ちゃんの口癖で
その時 君の丸顔は
とても怖いほど 正直なカタチをしていた

死ぬ3日前

一人で外出したいと言った舞ちゃん
その大きな瞳の
星空のような目や
流星群が堰きとめられたような和音

いつものアダージョなキスをして
生まれたてのこどもが
裸で必死に這い上がろうとする
あの勤勉な頬のゆるみを残し

少女がこの世に譲っていったものを
僕はうっかり
奪うことができない

文学極道

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