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作品 - 20050609_573_262p

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真昼の月

  丘 光平


   八月半ばの
   真新しい朝と光と
   肉体
   その星の決まっていたものは
   もう汗をかくことはない
   それは過去という名の夜 あるいは
   地下の闇 私の位置からする
   時と空の喪失であるが
   もしかすると
   彼の向きからは
   こちらがよく見えるのかもしれない
   おそらく彼の瞳の白に
   境界線が映っている
   その境界線に 一本の枯れ木
   それはかつて呼吸と感情を持っていたが
   その皮膚をむしりとられたものは
   ふりむかない


     蝉が鳴いている
     蝉が鳴いている
     蝉と私はどこで別れたのか 


   蝉の命は
   七年と一週間 そのあいだ
   私の細胞はまた生まれ変わるという
   この生成と腐敗の焦点に
   針がある
   針一本通さない
   夏の膨張をきみは知っているか
   それはひとつの声
   針千本に焼かれた声
   さびしい匂いだ 冬にも等しい
   収縮への郷愁にさえ放棄された
   声 そこから蝉は 
   私へ帰ってくる
   ただ その声の主にはどこにも
   顔がない


     小雨が降っていた
     小雨が降っていた
 

   雨に浄化された夏空は
   子供のようにひどく美しい
   骨の焼けるあいだ
   私は独り
   まだ湿りのある広場で煙草をやっていた
   ふと 気がつけば
   羽虫がベンチの隣に座っている
   その青みの羽と透明の羽とが
   触れたり触れなかったりする
   汗の息遣いを感じたのか
   親子は
   羽音の静寂を残し
   並木道の明るみの向こうへ消えた 


     道はどこへ続いているのだろう
 

   私が振り返ると そこに
   名も知らぬ緑豊かな樹木の梢
   くゆれる白けむりの先にぼんやりと浮かぶ
   真昼の月をみた

文学極道

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