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作品 - 20050606_540_255p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


スピリット

  ケムリ

西日の丘でハッシシを吸いながらライオンは燃え尽きた
スピリットは蒸留されて煙と一緒に滑空する
コヨーテは眠る ペヨーテ・ボタンを齧るように
煙草をくれ 赤い目をした怪物のために

嘘をつくみたいに手を繋いだら
魂は蒸留されていく 徴税人の唇に触れる前に
夜は煮詰められていく 色は失われていく
ぐるぐる回る南京錠をかけられた世界

マリファナを吸う彼女は十七歳で
窓からは年月が流れ出していく そして僕らは眠る
十億年前の泥土のように 僕らは眠る
魂は気化していく

たてがみが崩れ落ちた そしたら扉は開いた
僕らは夜の終わりについて考える
そこには痛みが 夜の痛みが 海月の沈む街がある
神様が助けを求めるなら 僕は洗礼名を捨てよう

千七百五十六階建てのビルから 猿の手は星を掴もうとする
六十七階で老人は腐っていく
屋上で子ども達は手をつないだ
成層圏で凍りついた 届かない手たち

魂は凪いでいく 赤い目の怪物は月に向かって七回吠えた
電気仕掛けの遠吠え防止首輪は彼を八回殺した
猫の尾は鍵の形に折れていて それは今扉の前で千切り取られた
僕は万力に両手を挟んで 五時間かけてねじ山をみんな潰そう

成層圏で友達はみんな凍りついてる
オープンハウスで眠る子ども達みたいに
彼女は眠ってる 発育不良の肋骨を抱え込むみたいに
足の無い鳩は飛び立って行った

北極星の初列風切り羽根が落っこちてきた
夜は窓から歩き去っていく 季節に落ちた吸殻みたいに
まだ言い残したことがあるんだ
でもいいんだ たいしたことじゃなかったんだよ

火の手が東の園から上がるころ
魂は家路につく 一欠けらのパンをポケットに残したまま
魂はまだ淀み始める 格子模様の朝日に断ち切られた弱さ
もしあなたが望むなら また魂は気化していく

文学極道

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