砂浜になぜか
まるのまま打ち上げられたりんご
いつからあるのか
りんごはなかば透き通っている
食べたらひどくだめそうなのに
僕はそれを舌にのせる
のを逐一 想像する
おいしいようなひどいような
それはつまり
取り返しのつかない味だ
僕たちは
またぐことも
無視することもできない
セロファンを重ねた空の
剥落
ぱらぱらと降りそうな
血が散った
と思ったら風船だった
風船売りが
あわてて空を仰いでいる
放置されたまま
これは砂浜にかえるだろうか
さらさらと
そうだろうか
そうは思えなかった
人が通り過ぎていく
少しのりんごの死臭をまとって
僕たちは
またぐことも無視することもできない
と
僕は思うのに
たまに気付いた人が
苦笑して目礼していく
今りんごをたべたとして
これ以上追放されうる場所などありはしない
のを
みんな知っている
北の地 北の海 海のむこう
何も容れてないはずの
空き瓶
の中の空の剥落
間違って放った風船を
浜でこどもが受け取っていた
あげるつもりじゃなかったのだと
誰もが言い出せないでいる
選出作品
殺伐にいたる病
フユナ