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作品 - 20050421_159_192p

  • [優]   - 光冨郁也  (2005-04)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


  光冨郁也

 冬はまだ続いている。海からの光で、部屋は青に包まれている。神話の本を繰り返し読んだ。岬には女の顔をした鳥、ハーピーがいるという。元は風の精ともいわれている。そのハーピーが舞う岬から、水平線の彼方を見てみたい。

 朝、薬を飲んでから、部屋を出る。鍵を閉めた。
 ヘルメットをかぶる。コート姿で、リュックを背負い、アクセルを吹かす。スクーターを走らせる。風が眼鏡にあたる。薄い雲が空にのびている。舗装道路。エンジンの音が続く。
 左手には海岸線がある。白いガードレール。右手の雑木林、時折、建物が見える。岬までの、距離を示した標識を過ぎると、地図で確認した峠がある。乗り越えれば、岬に立てる。坂道に、アクセルを吹かす。
 危ないので、バスに道をゆずり、4WDに追い抜かれ、岬の近くに着いた。雑木林の脇にスクーターを置く。鍵を抜き去り、ヘルメットを置いて、岬に向かって歩く。空に揺らめく影。
(あれは何の鳥だろう)
 茶色の翼の鳥が小さな群れを作っている。展望台と店がある。
 階段を上がり、店員にポップコーンを注文する。品をもらい、展望台の階をもうひとつ上がる。
 ふいに羽ばたく音がある。茶色い翼の、鳥が目の前に飛び込んでくる。
(ハーピーだ)
 わたしは身をすくめる。手にしたわたしのポップコーンをハーピーがさらう。反射的に、手を隠す。ハーピーが群れをなして上から横から、茶色の翼を羽ばたかせている。

 もう少しで、岬に立てる。
(この先に何があるのか)
 浜辺を歩いた。風が吹く。わたしの背後から、ハーピーたちが群がり追い越していく。羽ばたく音を聞きながら、わたしはいつまでも曇った空を見上げている。女の顔が浮かぶ。
 岬に立った。その水平線の彼方は、微かでわたしにはまだよく見えない。わたしは片手を上げて、雲を消し去る風の精を呼ぶ。来てくれるのか、青の中に戻されるのか、わたしにはわからないけれど。

文学極道

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