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作品 - 20050407_024_166p

  • [佳]  柿の木 - 望月(望月裕道)  (2005-04)

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柿の木

  望月(望月裕道)

柿の木の腐りゆくさまは、なんとみものであろうか。わずかに、異臭を暗がりに放ち、ほとぼりが冷めるまでの年月を、奇妙なまでに再現しているのだ。村の各所からふらふらとつられるように出てきた衆は、もくもくと煙のように、腐りかけた果実をもぎ取るとやおら振り上げて、その角度を目線で愉しむ。とはいえ究極の快楽であった。腐りつつ、柿の木の周辺に散らばるように生息しておったのだ。そういう手順は必ず守り、たしかなまでに確実に生息しておったのだ。夜になると、鐘のように骨盤が揺れているから外出は控える村人が続出するなか、おぼつかない足取りで、骨盤をゆらしながらあの腐りかけている柿の木に、すこしずつ、すこしずつ、近づいてゆく若者達がいた。絶景かな、柿の香りになずませる呼吸は、目線よりわずかに上辺に位置していたために、若者達のわずかに毛細血管の走った赤い血走った目は、くるめきくるめき遊ぶように、てんてんと落とされてゆくのだ。月の出が悪いから、今夜はすぐにしぼんでしまうであろうと、誰もが思った。しぼむものしぼんで、それとて当然であるのに、若者たちは、とうとうしぼんでしまうに任せてしまったもので、あとには、残骸までもが死に掛けた魚のようにして、ことづけを待っていたものだから、柿の木は余計に腐り、腐りしてしまうのだ。ああ、これこそ絶景かな。そういう道理に、従うべきして従う、そう、絶景かな。柿の木は、いよいよ本調子で腐り始めたものだから、周囲はひえびえとして偽の小雪が降り注いで、それゆえ、ますます腐り腐りしてしまう。若者達も、揺れる骨盤の狭間に、横たわるようにして月の出を待ち構えていたものだから、月は、骨盤と骨盤の狭間で動けぬように固定されて、だから、こうこうと月は激しく、柿は腐りゆくに任されてゆくのだった。まだ、静かに飯の食える、結露の季節であった。

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