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作品 - 20050326_931_143p

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龍との生活

  Canopus(かの寿星)


ぼくは龍と二週間ほど同居したことがある
猫のフクちゃんが何かひらひらした
長さ30cmくらいの紐とじゃれて遊んでいた
それが龍だった

あまりに哀れに干からびてたんで
風呂場で水をかけたら ジュッという凄い音がして
あたりが湯気でみえなくなった
風呂場の入り口で首だけ出して覗いてたフクちゃんは
バクチクが破裂したかのようにすっ飛んでった
視界がようやく開けたそこに
龍が浮かんでいた

以前 飛行機に乗って
上空から関東平野を眺めたことがある
平野のいちめんにうっすらと灰色の空気の膜がかかって
それはいちめんのスモッグで
こんなところにぼくは帰るのかと
暗澹たる思いをした
龍も同じ風景を視たのだろうか
こんなとこには霞はかかりはしないのに

はたして龍はタバコの煙には徹底的に弱かった
昼飯のお粥は箸を使ってペロリと食べた
フクちゃんはテレビ台の下から出てこなかったけど
二昼夜ほどして ようやくお気に入りのクッションで丸くなった
でも耳はピクピク動いていた
部屋の真ん中に龍 行儀よくとぐろを巻いて浮かんでて
チロチロと小さな炎を吐いて あ 鼻ちょうちん

新たに購入した空気清浄器の甲斐もなく
龍は日に日に弱ってちゃぶ台の上でぐったりとしていた
しかもフクちゃんまで思わぬ同居人に不貞腐れて
プチ家出をしちゃったんで
ぼくは龍を山に連れていく決心をした

上高地や安達太良山がいいか と訊ねると
龍はゆっくりとかぶりを振った
仲間はどこにいるのか との質問にも首を横に振った
ぼくは知った
人が龍を想わなくなって龍の個体数は減少の一途を辿ったのだと
そして彼こそが
日本最後の龍なのだと

ぼくは龍を信じよう
龍と暮らした二週間を胸に抱いて生きよう

ぼくは龍と卓を囲んで最後のお粥を食べて
お気に入りの この街でいちばん見晴しのよい丘で
龍とさよならをした
昼の白い月は思ってたより大きかった
龍は人間式のさよならをぼくに返して よたよたと
灰色がかった青空の彼方に消えていった
龍の通り過ぎた後には虹が架かるのだと
この時 初めて知った

文学極道

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