冬になり、女の顔をしたバードは飛び去った。わたしは、あの時の車をスクラップにして、海の見渡せる丘に部屋を借りた。情報誌でバイト先を見つけた。倉庫の仕事に就く。朝七時半、精神安定剤を飲んでから、家を出る。伝票に従い、棚にパソコンの部品を入庫する。夜八時半、家に帰り着く。休みの日は浜辺に出て、流木を拾う。
わたしは日曜日、干してある緑の作業着をよけて、ベランダから海を眺めていた。
(今日も流木を拾いに行こう)
わたしは部屋の鍵を閉める。洗いざらしのスニーカーをはいて、外に出る。今日は、空が低い。乾いた舗装道路を渡り、砂地の枯れ草の上を歩く。休みの日は午前十一時から外に出る。西日になる前に、部屋に戻る。それまでに流木を拾って、昼食をとる。
遠く水平線に白い波が光っている。潮の香りがする。吹く風に、紺のダウンジャケット、ジッパーを胸元まで上げる。波打ち際を歩く。白い枯れ木を一つ見つけて、拾う。枝に小さな海草がついている。枯れ木を持って、また歩く。スニーカーの中に砂が入る。丘の上、スクールバスを改造したカフェに向かう。タイヤを車止めで固定した、黄色い車体。銀のプレートの看板。
バス裏手の空き地、枯れ木の枝を置く。空白を埋めるため、わたしが置いた流木がいくつか傾いている。
バスの階段を上がり、中に入る。腕時計を見ると、十二時半。カフェで、サンドイッチとホットコーヒーを注文する。わたしは本棚から、読む雑誌を探す。手に取り読む。活字に疲れると、窓の向こう、バードが飛んでいた空を見る。青い空に、翼が羽ばたく姿を思い出す。集めた枯れ木や流木に、風が砂を吹きつける。
(空の青さを取り戻すために)
砂に生える枯れ木。その上に広がっている、窓越しの遥かな空。風が吹く。わたしが枝に付けた、バードの羽根が揺らめいている。その女の顔を思い出す。
わたしは振り返る。ドアのガラスに、切り取られた冬の、薄い空の形。
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作品 - 20050314_772_122p
- [優] ブルースカイ - 光冨郁也 (2005-03)
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ブルースカイ
光冨郁也