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作品 - 20050307_685_110p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


冬の詩人

  丘光平

街はゆうぐれ、息はつめたく
ふれあうものみな悲しいけれど
かなしいけれども
こころ引きよせるほのかな明るみに
女は
黒髪にその若さをしめらせ
いくたばの淡い詩集をたずさえながら
じっと
ありたけの想いはしずかに
病をひめた都会びとへ
おしみなく
生をささげる、真白なおまえの手のひら
その手のひらに
ただ
風はたわむれ、息もつめたく
ふれあうものみな切ないけれど
せつないけれども
なにものか想い高鳴るかすかな願いに
ひとびとは
ちらとむくいる刹那もしのんで
沈黙の背なをわすれがたみに
影、遠く
日々の暮らしへゆきすぎるのみ。
ああ冬の詩人よ
そのこまかにふるえる桃のくちびるは
あまりにたよりなく、そして
はかなげで
なげきの胸にゆらゆらと咲く
うすむらさきの花。

今宵、この街に雪は降るのだろう
あの手のひらに雪は降るのだろう
しんしんと しんしんと

文学極道

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