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作品 - 20050304_669_106p

  • [佳]  MAKING EPIC - Canopus(かの寿星)  (2005-03)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


MAKING EPIC

  Canopus(かの寿星)


●はじめに●

はじめに
大きなぬいぐるみを抱いた
可愛いコアセルベートに人生の苦味を少々
タブラ・ラサ
タブラの遠雷のリズム
クレシェンド クレシェンド
地平線を つっと引いて
近づいてくる拍動の朝に
視界には うす汚れた茶色い階段が
ぎいぎいと暗く鳴いてるのしか見えないけど
湿った三畳間の下宿で
布団にもぐりこんだ君しか見えないけど


●しあわせについて●

むかしむかし
ぬいぐるみをいとおしく抱いたよろこび
ぬいぐるみに布団をかけてあげたしあわせ
記憶する手のぬくもり 君は寝ぼけまなこで
洗面器に水を汲んできて
櫛に水をひたして
長い髪を梳いている
窓の隙間から湿った冷気が忍び込んでまぶしい
同じ水で顔を洗う
軽く体も拭く
タブラのリズムは目と鼻の先で
早くもシタールとギターが空から降りてくる
引き出しから古い手鏡を取り出して
にい と笑顔の練習をする
少し濁った洗面器の水を
ひとさし指でかき回して
歯は

歯を磨きに
君は洗面所へ降りていく


●あこがれについて●

(ロマンスに憧れることはあるけど
 ヒロインも経験してみたいとは思うけど
 ミニスカではしゃぐ高校生は少し羨ましいけど
 いつも同じジーンズを履いて
 悠久のリズムに身を浸しているうちに
 なんだか気持ちよくなってしまった

 友達とよく屋根には登った
 膝を抱えて生きていられるほど
 人に囲まれてはいないから)

パンの耳に砂糖をまぶして
それでもコーヒーはきちんといれた
朝ごはん


●不安について●

先だって汚してしまったジーンズが
まだ乾かない 二本しかないのに
空は今日も曇っていて君は短いため息をつく
ため息はスタッカートで
小気味よいギターに変わる
大きな不格好な黒い傘 くすんだトートバッグ
やさしいシタールのピチカート
自転車の鍵を持って


●子守唄●

シャッターの降りた早朝のアーケイドで君は自転車を停めた
どこか遠くで三線(さんしん)が聴こえて
君はそっと涙した


●MAKING EPIC●

ぎいぎいと鳴く茶色い階段を昇ると
湿った三畳間の下宿のドアには
「外出しています」の札
カーテンが降りて
部屋はいっそう暗く
誰もいない

人々の優しいことばは君のもの
絡んでくる酔っぱらいは君のもの
うねるタブラのリズムは君のもの
輝くシタールも君のもの
ひさしぶりに見た夕焼けは君のもの
カップに残ったコーヒーの苦み
河原でホタルを見た
頬をたたく風
あるいは強い雨
ちょっとお腹がすいて
友達の笑顔
青い空


みんな君のもの

文学極道

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