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作品 - 20050226_623_96p

  • [優]  改札口 - 佐藤yuupopic  (2005-02)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


改札口

  佐藤yuupopic

Tさんが来ると云うので、水炊きでもしようと
新聞紙にくるんだ土鍋を出して
それから
改札口まで迎えに行った

私が、台所に立っている間、
Tさんはすることもなく
テレビもレコードも、荷解き前の
しん、と静かな午後に
水をひたひた、春菊、
じゃくん、じゃくん、と刻む音だけ響いて

鍋を囲めばなおさら、口数少なく
湯気をかきわけ
ただ、宮崎地鶏をつつくほかなし

私が、お皿を洗っている間、
Tさんは
洗濯機のホースのゆるみを直し
サッシに油を点し
それから、なおも口数少なく
縁側に並んで
麩饅頭をいただきながら
あまく薫る、静岡茶を飲んだ

夕方になって、
Tさんがそろそろ帰ると云うので
今度はアパートから駅まで、先刻来た道を

Tさんは
切符と一緒に
改札口に、吸い込まれていく

一度、振り返って、もう一度振り返って手を、ひらひら
三度目は、もう振り返らない
ホームの柱と、夕陽の陰になって
もう見えない

次の約束もせず
私たちは二度と一緒に住むことはないのだと

胃の上の辺り
ぎゅうう、と
初めて逢った時みたい
に、なって
痛い、
塩っからい、
苦い、
熱い、
何かが、ぽたん、
と手の甲に落ちて、ああ、
「おかえりなさい」、て云いたい
自分から手、離したくせに、今更
どうかしている、と

電車はTさんを乗せて
がった、ごっと、しゅう ごーう

小さくなって、
消えた

文学極道

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