花の名前を知らない 僕はまどろんでる
知らない歌口ずさむ君 もうすぐ坂になるから
コーヒーショップの上空七千メートル
僕はまどろんでる 君はサンダルで歩いてる
マンデリンを200グラム ポケットから千円札
笑うように枯れた日々のために
複座で眠ってた女の子のために
コックピットを開けて手を振るよ
何気ない顔して星は揺れた
手を繋いだら上空七千メートル
髪を切りすぎて泣いてた女の子のために
僕はまどろんでる もうじき街路樹が尽きるね
百円玉で紙コップのチェリービーンズ買ったね
爆撃機は高度を下げる オナモミをくっつけられた女の子のために
坂道を両手広げて サンダルを風が洗う
薄いブラウンの髪が星を射抜いて行く
僕はまどろんでる コックピットを閉めた暖かさで
複座から友達が揮発していく
君は不機嫌な顔をしてドアを開けた
カリタから人々は流れ出してく
ほらあれが火星なんだ 真昼でも見えるんだよ…
僕はタンポポの群生地に狙いを定める
まどろんだ意識が落ちる前に ドリップしすぎた痛み
君は物憂げにコーヒーを飲んでる
さあ ゆっくり墜落しよう
並木道の終わりみたいな日々のために
君は気にも留めない 僕はまどろんでる
幸せな女の子はみんな綺麗で
爆撃機はゆっくり墜落していく
- まーろっく :
美しいファンタジーだと思うが、作者を突き動かしてこの作品に向かわせている切実さが見えてこないために、緩く読むと甘いポエムとかわらなくなってしまう。
冒頭で「僕」(の意識)が上空の爆撃機にあり、「君」は地上のコーヒーショップにいる。実在の「僕」もおそらく「君」といっしょにいるのだが、まどろみのなかにいる意識は自在に上空の爆撃機と地上のコーヒーショップを行き来するのだろう。このしくみは面白いのだが、水平的視点と俯瞰的視点のコントラストがはっきりしていないのが物足りない。
爆撃機という破壊的属性をもった表象を、たとえアイロニカルに書くにせよ、
爆撃機という言葉の強烈さほどの存在感がない。爆弾を落とすことすらできずにゆっくり墜落していくという無力さを「君」を自分のものにすることができない「僕」の象徴として見る事もできるが。
墜落という点では「僕」だけが墜落しているのか、「君」といっしょに墜落しようとしているのか不明である。いっしょに墜落していくというのであれば、
僕の無力感とは別な何かを象徴しているようにも思える。
髪を切りすぎたり、オナモミをくっつけられたり、複座で眠っていたりする女の子はみな思い出のなかの「君」なのだろう。そして今の「君」は不機嫌で
物憂げにコーヒーを味わっている。この時間軸の錯綜感はいいのだけれど。
それにしても一語一句の解釈を強いられる作品だと思う。作品の底流に流れている情動が基調をなして、さほど語句にこだわらなくてもスムーズに読ませてくれるという作品ではない。しかもサラっと読むと甘い味しかせず、仕組みの
面白さにも気づかずに通り過ぎてしまいそうだ。
直接的なメッセージはなくてもいいし、大げさな表現をとる必要もないが、情動の表出の乏しさが作品解釈を困難にしてしまっている。 ('05/05/28 11:54:32)
- ミドリ :
3回くらい読んで、やっと何かが「定着」するような感じがします。個人的なリテラシーの問題で。笑
休日のゆっくりした時に、ソファーと紅茶がグゥーな感じで読めそう。
個人的な趣味をケムリさんにムリやり押しつけちゃうと、もっとメロンな感じで「あま〜く」語っても良かったかも、と。
しかし、この爆撃機は高所恐怖症の人にも乗り心地は悪くないと思う。
だって地面すれすれを滑空しながら、どーも早く降りたがっている「ヘモさ」人間的な好感を誘います。
「上空7千メートル」きっと嘘だ。笑 ('05/05/28 13:15:46)
- 紫野 :
一読してすぐに心地の良い風景が入ってきました。
以前ケムリさんの作品に、読んでいる途中で素面になってしまうというような趣旨の感想を書いたことがありますが(失礼しました)これは無理なくこの中に遊ぶことができました。おそらくある種の疾走感や浮遊感の中で書かれたものだとは思いますが、表現に抑制が効いているのでこちらが自由にイメージできる空間ができているような気がします。曇り空、花の名前、マンデリン、チェリービーンズといった具材にもやわらかく目蓋をつかまれました。また何度か読もうと思います。 ('05/05/28 23:04:44)
- ケムリ :
まーろっくさんへ 「仕組み」に気づいていただけて、本当に嬉しいです。僕は天邪鬼なので、仕組みを素直に見せるのを嫌う傾向があります。そのくせ読み取ってもらえないと悲しいんですから、勝手なものです。水平と俯瞰の入り混じる風景が一枚の絵になれば、と思って書いたのですが、その辺りに弱みがあるのかもしれません。しかし、ぼんやり霧がかかったような風景を描くために、そのボーダーはある程度曖昧にするしかなかったという面もあります。
まーろっくさんの切り刻むように分解する読みかたは実に勉強になります。そうして読む人の目線にも堪える詩を書きたいものです。 ('05/05/30 02:57:42)
- ケムリ :
ミドリさんへ 柔らかいイメージが伝わってくれたのなら、それはとても嬉しいです。メロンな感じ、というのはちょっと僕には無理ですが(何せ、無骨な人間なもので)初夏のぬるい風のようなものがこの詩にあったのなら、それはとても嬉しいことです。そう、彼は降りたがっているんですね。書いたくせに僕自身、気づいてなかったです。僕はどちらともない気持ちでいるつもりだったのですが、彼は降りたいんです。 ('05/05/30 03:07:58)
- ケムリ :
紫野さんへ 確か、そのコメントを頂いたのは「無題」の時だったと思います。あの詩は人の口に漏斗を当てて無理矢理流し込むような詩であって欲しかったんですが、やはりそういうところがありました。
僕は詩の中に組み込む言葉を選ぶ作業が凄く好きなんです。手帳に常に言葉を書き留める癖があるもので。手帳を見返すと、一言「マンデリンを200グラム」と書いてあったり、あるいは「紙コップのチェリービーンズ」とか書いてあったりします。「無題」の場合はそういう言葉を無軌道に吐き出したもの、という色が濃かったので、やはりその評価になったのではないかな、と勝手に思ったりもします。イメージの自分勝手な炸裂だけでは良い詩にはなりえないのだな、と思いました。
気に入っていただけて本当に嬉しいです。また読んでいただければ、これほど嬉しいことはありません。 ('05/05/30 03:30:16)