落ち窪んだあなたの眼窩に、ふた筋の光が集っていく
笑わないで夜の言葉、しろく佇んだままそこにいないで
オレンジの静寂、その隅っこを小さな虫が齧っている
海は潮を下げて、疲れた月が白んでいく
それは引き潮のいるか
波の合間に転げたままのひかり
メロウ、メロウ、メロウ、柔らかく霞んでいく
こっそりと掴んだつもりは、真っ白で乾いたゆびさき
全ての銀毛が空を見上げる
どこかの真ん中で くちびるは引き裂かれていく
それは引き潮のいるか
遠ざかって消えていく繋がり
取り残されていく夜の対岸で、星を繋ぐ人達が煙管を吹かしている
眠らないで、海を渡るかもめ
揺り貫いていて、心臓を腐らせたまま
乾いていかないで、匂いのあるままでいて
それは引き潮のいるか
どこかの真ん中へ引き絞られたさよなら
ノーホエアの疑いが、限りない世界を分かち合っていく
内心など問わないで、それは存在しないままでいて
つがいの鼠がアスファルトの中で固まっているのは
全てのネストが暖かであるため
ねじれた尾びれに瑪瑙の槍を突き刺して
幼い蛮勇を翳したまま 引き潮のいるかを追っていく
齧りとった口に、匂いの無い骨が残って
それでも角が無くなるまで舌先で転がした
もう腐るまで波打ちぎわに埋めておいて
柔らかな砂をまとった、ずっと濡れたままのくちびる
ノーホエアの音韻をつがえて
海に出るときはいつも希望しか有り得ない
引き潮のいるか、笑わないで夜の言葉
しろく佇んだままずっとそこにいて
唾液の匂いさえ消えていく繋がり
どこでもないどこかの真ん中へ
- Tora :
音響詩ではないですが声に出して読んでみるととても楽しくなりましたよ。
やはり音韻から生まれる詩よりも、詩から生まれる音韻のほうが心地よいです俺は。
紡ぎだす 言葉の重なり裏返り 繋がりリズム 心地よさ。
ということで。 ('06/06/01 19:17:04)
- 軽谷佑子 :
ケムリさん、こんばんは。
新しいことばの並びをすごく考えて一周して戻ってしまった、
ような印象を持ちました。
使い古されたイメージ(ケムリさんの作品群においてという意味でも、
ほかのひとに、という意味でも)を念入りに洗濯して漂白もかけた、
みたいな。
これだけの分量を連分けで一気に読ませてしまう、
ケムリさん独特の連続性、というのはこの作品にもきっちりあって、
安心して終わりまで読んでいけるのですが、
タイトル・文中に幾度となくあらわれる「引き潮のいるか」
が作品にあらわれていないような気がします。
五連の表現はちょっといき過ぎているのではないでしょうか。
おそらくケムリさんの中では「見えている」ものだろうと思うので、
あと、「ノーホエア」「ネスト」をなぜ日本語にしなかったのかが
個人的にとても気になります。 ('06/06/02 01:14:45 *1)
- atsuchan69 :
今日はとても贅沢な日で凄い詩の入れ食い状態みたいだぞ。この詩はじつはもうケムリさんのブログで既に読んでいたのだけど、再々読してもやっぱりイイな。完成度の高さがいつ壊れるのかという意地悪な読み手の心理に逆撫でし、まるで張り詰めた弦のようなスリルとスピードを最後の最後まで均一に持続させている。ちくしょう! ('06/06/02 03:17:45 *1)
- ケムリ :
Toraさん ぼくも「朗読」とはまた違う方向性ですけれど、言葉の重なりと音感にはこだわりがあったりします。意味や内実と折り合いをつけるのが結構難しいとこなんですけれど。ありがとうございます。
かるやさん なんというか、「新しい表現を」っていう、今までの路線。「ありそうでなかった」言葉の組み合わせでっていうのが、そろそろダメになって来ちゃったのかな、という気がします。その代わり、ちょっと違うものが書けるようになってきた感じもするんですけれど。それでも勢いや鮮烈さは、ここに投稿し始めた頃のものに比するべくもない状態です。ただ、それはそれとして、通過地点として捉えようと思っていますけれど。どこかで、抜け出さないとダメだな、とここ数ヶ月思い続けてます。五連目の表現は、どこまでギリギリに行けるか踏み込んでみたかったんです。「月童」辺りから、あざといイメージ描写を試してます。ただ、それがグロテスク・リアリズムやエロティシズムに落っこちたら、ぼく的には負けな気がするんですよね。難しいです。
「ノーホエア」は、代替する日本語が今一思いつかなかったからです。「ネスト」も同様に、音と意味の兼ね合いです。日本語だと、どうもピッタリ来ないんですよ。 ('06/06/03 07:45:17)
- ケムリ :
atsuchan69さん ありがとうございます。ブログ、みてくれてたんですか。嬉しいですね。 ('06/06/03 07:47:07)