あたしは、公園の滑り台の上に突っ立っている。中指は半分隠されて、連中の具体的な財産を狙っているバイク野郎は、ヘルメットを違うふうに被って、日差しがあいつらの横に大きな影を作った。長い時間が来ると、あたしの国は、白髪の紳士に骨抜きにされるんだけど、その頃にはとっくに、なんだか新しくて、あたしたちに変わる生き物が、あたしたちを支配しているんだって、あたしのママが言ってた。暴走族はバイクを乗り捨てるし、乗り捨てられたバイクが都市開発のあおりを食ってゴーストタウン化した街の入り口と出口付近で、自主的に衝突してるって話は、都市伝説の一種に過ぎないんだけど、そんなことより、いつの日か、あらゆる利便性があたしたちの個性を追い抜いていく。あたしがここにいる、という確かな実感が、確かな確からしさを無邪気に担保するのは、あたしがここにいる、という実感でさえここじゃないどこかに保管されているということ、に置き換えられてしまっている。あたしは、なんだか、夢中になって、片っ端から与えられた書物のページをめくった、それで、あたしがあなたに与えることが出来るのは、ページがめくられるたびに生起する風の音だけ。そうやってれば、いつかどこかに辿りつくと思ってるの。そうやって、ひたすらページをめくってれば、どこかに保管されているあたしに辿りつくと思ってるの。あたしの脳みそに最新の電極をぶっこんで頂戴。Aの次はB、Bの次はCだから、あたしは、公園の滑り台の上に突っ立っているから。あなたの腕は、まぬけな男みたいで、白髪の紳士が骨抜きにした淑女みたいで、その腕にからまって身動きがとれなくても、ママは、そこらにケチャップをぶちまけて、気の違ったやり方でくちびるに口紅を塗りたくっている、ママは、巡回セールスマンとの乱交の白昼夢にびっしょりだけど。あたしが育った街に、あたしが生まれた面影はない。公園の滑り台の上に突っ立っているあたしは、いつの日か、暴走族になっているの。あたしは誰よりも速い暴走族になって、ストライクを三つ見逃して、いなくなる。あたしが、いなくなっても、あなたはあたしのこと、覚えていてくれる?
- 丘 光平 :
作品の理知的主題を考えるにつき、この「あたし」の独白スタイルが功を奏してるかなと。あと、例のごとくイメージを次から次へと畳み掛け、もつれ合い、それでいて、くっきりと鮮やかなイメージを浮かび上がらせる、そんな一条さんの作品の持ち味が良く出ていると思います。面白かった、という手垢のついた感想をあえて(笑)。それにしてもこの「血みどろ臓物」というタイトルが・・・(自粛)。 ('05/11/11 12:42:17)
- Canopus(かの寿星) :
ことばだけで、誤解を怖れずに言うならことばの断片だけで、世界を創っ
ていくのは、なんて難しいことなんだろう、とつくづく思う。
正直、このことばが紡ぎ出す世界に対して、興味を持てないで困っていま
す。滑り台の上に仁王立ちになってる彼女は魅力的なのに、そして彼女の
内面に斬りこんでいくセンテンスは妥当なものであるのに。
外部の事象を、すべて内面に取り込んで閉じこめて、その化学反応を楽し
んでる風情、ていうのかな。しかも彼女という、内面から覗いた都市もマ
マも「あなた」も、すべて表情というものが欠けている。彼女の内面を表
現しようとして、彼女という人間そのものを描けていないような、そんな
もどかしさを感じました。 ('05/11/13 22:51:58)
- 一条 :
丘さん
ありがとうございます。断片羅列という形式については、ぼく自身、飽きずによくやるなあと思っています。一言でいうと、好きなんですね、こういうのんを読むのも書くのも。
Canopus(かの寿星)さん
描いたのは「キャラクター」じゃなくて「キャラ」だった、という
感じですかね。
「テヅカ・イズ・デッド」というマンガ批評本に
「キャラクター」と「キャラ」の違いが書いてあって、
「キャラ」には表情がないと。つまり、濃密な外部を失った現代は同時に、
表情という外部とのインタフェースを失った。
もう「文学」は「文学」じゃないし、もう「マンガ」は「マンガ」じゃないんでしょうか。 ('05/11/14 13:54:12)
- d :
初読、すごくダルかった。最近の一条さんは俺には大抵そうだ。この詩は滑り台の上に突っ立っているシーンだけが印象に残って、あとは、世界には表象しかないんだ、内部なんて無いんだという説法の説明が成されているように見えてしまった。バイクが無意味にぶつかり合う様は面白いけれど、「白髪の紳士」ってのが何のことなのか俺にはまったくイメージできない。 ('05/11/14 20:42:38)
- 一条 :
dさん
ダルいかあ。これが他人の書いたものなら、自分もダルいなあって思いそうではあります。結局、いつもそういう不安をどこかに抱えながらも、こういう主旨のサイトに投稿して、誰かの批評を求めようとしている、そういう矛盾すらも、ぼくの作品のテーマのひとつではあります。 ('05/11/15 09:34:20)