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12254 : 夕方  深尾貞一郎 '20/12/07 09:06:01

うすい雲の空から
雨をつかもうとする手のひら

公園の錆びた
遊具のような人の性(さが)を洗う
花梨のように
咲く人の 憎しみを
洗う

真鍮色をした終了ベルがけたたましく鳴った
町工場では防護面をかざした人が火花をつくる
アーク溶接の激烈な閃光がうまれた
5本の指を見詰める
細かい傷にグリースや鉄粉が入りこんで……
ギャーッ ギイヤーサー
ギュー ガー
ツーゥ
ベビーサンダーの回転する音
低音でうなるドリルは分厚い鉄板に穴をあけ続ける
黒く空いた穴からは螺旋状のうすい金属片が生える

タイル張りの手洗い場にはいくつもの蛇口がならぶ
ピンクの粉石けんが白磁の皿に盛られている
指のあいだをこすりながら
あぶら汚れを洗い流す
昼休みの休憩室 テレビから聞こえてきた
子供のピアノ演奏を思い出した
遠いフランスでその曲は
「悲しみ」と呼ばれている

雨はもうやみ
電球色に照らされた夕暮れは月が昇るのを待ち
ゆっくりと過ぎてゆく

(ねぇねぇ
(あそぼうよ
騒音に包まれながら
悲しいことなんて忘れていたいのです

鉄粉に汚れた制服のまま自動車にのりこんだ
スマートフォンをながめ缶コーヒーで喉をうるおす
いつものようにツイッターで仲間の投稿をみる
ピアノの演奏はまだ聞こえている

>> permanent URI: http://bungoku.jp/ebbs/20201207_895_12254p

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