錆びたバケツで、壁に水をぶちまける
壁は
心臓じゃなかった
でもどきどきしてる
ポケットからアクリル板の切れ端を取りだして
太陽を見あげた
目のまえをちいさな船がよこぎって、波が視界にあふれてくる
アクリル板で
お父さんを透かしてみる
(悲しいって、何色だと思う?)
駐車場にずっと立ってるお父さんを窓から見おろしていました
お父さん、なにしてたのかな?
わかりません
窓のまわりには死んだ羽虫が仰向けになってて
四角い青空があって
一枚の凧が
女の子の顔みたいに浮かんでたんです
(そんなん言われても知らんし)
土曜日は
お父さん、お母さんを殴ってるから
衣装箱のなかでなるべく静かにしていようとおもっていて
日曜日は?
覚えてません
(白いの?)
こうやってさ、鋏で
おまえが書いたへたくそな詩をきりきざんで
窓からばら撒いてみるの
そっちのほうがもっときれいじゃん
(そうかもね)
それできみはお父さんになんて言ったの?
でもちがくて
でもちがうんだよ、お父さん
っていいました
(でもちがうんだよ、お父さん)
窓をあけて
風のなかで手をひらいたんです
それで?
アクリルで透かしてみていました
ひらひら、
白くて
それからまぶしかった
太陽が
いま、
棺のなかで父が燃えています
(ざまあみろ)
生きるというのは
とても戦争的なことですから
骨までぜんぶ透きとおっていくんです
ほら、
ここが喉仏です
汚いゴミみたいに、みんなで箸でつまんだり
壺にしまわないでください
わたしが死んでも
窓のそばで死んでる蠅みたいにそっとしておいてください
(お父さん、なにしてるの?)
錆びたバケツで
棺に水をぶちまける
でも棺の中身は
もう父親じゃなかった
(ねえ、悲しいって、何色だと思う?)
(ここ駐車場
駐車場しかないよ
ただの駐車場だよ
ねえ、お父さん
はやくどっかちがうとこいこうよ)
>> permanent URI: http://bungoku.jp/ebbs/20180212_476_10246p
- 完備 :
一言で言えばひたすらにうつくしい という印象につきる 細かい上手さは挙げればきりがないが 例えば「四角い青空」などそれだけだとあまりに詩的に思うが前後の透明な印象のなかでは上手いなあと感じ入った ただあまりにうつくしすぎる 別の言葉で言えば詩的すぎる そのうつくしさに抒情が霞んでいるとすら思った 以上すべて感想 あるいは印象です ('18/02/12 22:36:33)
- 完備 :
映像イメージをシャープに言語化する能力が高いのだろう しかし写実的な絵を書けるだけなら写真で良いということになる もちろん言語によって喚起される映像は映画やアニメとは本質的に異なる面があり それを追求するのもひとつの方向性かもしれないが 中心的な問題意識を言葉そのものに置く立場には物足りなさを感じさせるかもしれない ('18/02/12 22:42:08)
- 游凪 :
とても魅力的な詩だと思いました。
描写がとても丁寧なので、読んでいて足を踏み外すことなく歩いていけるような感覚です。
悲しいって何色だと思う
という言葉が特別変わったものではないのに、染み入るように残ります。
伝わってくるものが途切れることなく、きれいに引っかかってくるところに惹かれます。
うまく言葉にできていませんが、ねむのきさんの詩が好きだなと思います。 ('18/02/13 19:37:21)
- 无 :
現代詩フォーラムの方ではポイントだけだったのですが、とにかく上手いなと思います。最初からいきなり「錆びたバケツ」ですからね。ただのバケツではなく錆びていることで、情景がリアルになる気がします。さらに「壁は/心臓じゃなかった/でもどきどきしてる」なんて続くと、それだけでもご飯が3杯くらいいけそう。アクリル板の切れ端って、店で売っているのかな。新しい時代の魔法使いは、水晶ではなくアクリルを多用しそう。
語り手の父親に対する複雑な感情が、アクリル板を通して見た風景と共に描写される。駐車場に立っている父親は、何となく不吉な存在に思えてきます。もしかしたら、語り手は何かショッキングなものを目撃したのかも知れません。父親が愛する人から恐れる対象へと変貌する出来事を。そして中断の後に父親の火葬のシーンへ変わる。喉仏のくだりは、実際に骨を拾ったことがある人には特に印象深いのではないでしょうか。最終連はどことなく恐ろしく、美しく、そして哀しい。 ('18/02/15 17:38:57)
- ねむのき :
完備さん、游凪さん、无さん
コメントありがとうございます。
>中心的な問題意識を言葉そのものに置く立場には物足りなさを感じさせるかもしれない
抒情というものを最近ようやく自分なりに考えはじめたところです。
なのでおっしゃることはよく分かります。
山田明「逆立ちする日差し」
http://www.japan-poets-association.com/contribute/%E7%AC%AC1%E5%9B%9E/
こういうの書きたいんですけどうまくマネできませんね。
>伝わってくるものが途切れることなく、きれいに引っかかってくるところに惹かれます。
その点については、やりすぎてダサくなってないか心配だったので、安心しました。
>現代詩フォーラムの方ではポイントだけだったのですが
ありがとうございます。あっちは縦書き表示できるので良かったんですが、
横書きだと空行がだらしない感じしかしないですね。 ('18/02/16 01:40:34)