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abu

選出作品 (投稿日時順 / 全1作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


463987BEATS KEMONOSTYLE

  abu

1
この国のプリンスと幸せに暮らす お姫さまが好きなんだ

お姫さまは
山を一つ越えて 人間共やフルーツが沢山いる街の先にある
白い 立派なお城に住んでいるのさ

白い 立派なお城の上には 赤い三角があるんだ
白い 立派なお城の素敵な窓は 全部で百四つさ
その中で 彼女が顔を出す窓は たった一つさ
一番上の 一番左側

この国で 一番きれいな彼女は
     一番が似合うんだ
世界中の 一番が 彼女に恋をしてるんだ

ぼくは いつもみてる
彼女が
毎晩 一番輝く 星を観てから
   一番暗い 星を慰めて
それから きまって夢の中で眠ること

彼女がこの国で 一番 やさしい
        一番 きれい
        一番 すき

2
たった一度だけ 彼女に触れたことがあるんだ
でも あれは夢だったのかもしれないな
たとえ夢であったとしても いいんだ

すごくうれしかったから

3
その夜も いつものように山を越えて
人間共やフルーツが逃げた街を通った
白い 立派なお城に来て
ぼくは
彼女の 一番輝く 星を観てから
    一番暗い 星を慰める のを観た

彼女なら その後
静かに窓を閉め 部屋の灯りを吹いてから眠る

でも そのときは違った

お姫さまは ぼくの方を観た

4
十センチぐらいの 隙間が
 ぼくの 脳 と 会話する

ぼくは 星になった       (十センチほどの)
ずっと そう願ってた      (約十センチの間)
星に お願いした日もあった   (十センチの日に)

ぼくは星になったんだ
つまりさ
 ぼくは ぼくから解放されたのさ

つまりさ
 ぼくが ぼくでなくなる というのは
 とても大事な瞬間さ
 その一瞬のため
 その出来事のため
 なによりもぼくのため
  (この後 少しの間 十センチがキーワードになる)

5
彼女のシルエット だけが目に映る
彼女の陰はなにやら 動いている
ぼくは 彼女の十センチ先に出掛けたままの
視線を それとなく
    しかも注意深く
    引っ張る

十センチは ひどく長い
十センチは たんぽぽの身長
十センチは ぼくの指の爪
十センチは ぼくのこゝろ
十センチは ぼくの目に映る
      きみの陰の部分

十センチがやっと戻ってきた
ぼくは彼女を確認している
彼女は  おいでおいで  としている
ぼくに?
まさか    いや ぼくに

6
もう一度 ぼくは いなくなる(トリップする)

一番輝く星をみた
一番暗い星をみた
一番上の赤い三角はいつもより 尖っている

 それから 羊飼いに教えてもらった星座をみた
 オリオン座 乙女座 獅子座 牡羊座に天秤座
 土星の輪を観て
 光を食べる真っ黒も観た

いろいろみてから 一度 白だけになった

そして ケムクジャラの頭が視えた
    ケムクジャラ頭は 何かを視ているようだ
    ぼくは
    ケムクジャラに気付かれないように
    ケムクジャラの視線にぼくの視線を
    そっと のせた

  ケムクジャラは ケムクジャラをみている
そのケムクジャラが またケムクジャラをみて
それが終わらないで ずっと 長い間 それだけで
ぼくは ぼくばかりみて恐くなった
(ぼくは ぼくを視たことが それまでなかった)
   
   終わりが先か 始まりが先か
   おわりはあお はじまりはあか

7
目の前をとんだ 虫の羽音に恋をする
恋はリアルを知って奇妙に驚く

今流れているだろう 時間に再び帰る

後ろからの視線がぼくを誘うけど 振り返らない
なにしろ 彼女が呼んでいる

ぼくはうれしくなって 足が急ぐのさ
気持ちも急ぐから バランスがいいんだ

こゝろが踊る
十センチのタンポポが歌う
先の尖った三角がトランペット
一番輝く星は鈴をならす

一番暗い星は これから と ぼく

8
立派なお城の門は ぼくを入れまいと 閉じたまま
しょうがないから高い 高い塀を乗り越えたのさ
木登りは得意だから かんたんさ

ただ 塀の天辺にあった 
立派なお城の一番上にある赤い三角よりも
鋭く尖った 固い三角に
腕をひっかけて 皮が裂けたのさ
少し痛いけど どうでもいいんだ
血が大きく踊りだすけど どうでもいいんだ

一番輝く星はまだ鈴をならしているし

一番暗い星は これから に 急ぐぼく

9
立派なお城の中に入った
急ぐけど静かに 虫の寝言のように悪戯に

中には 赤い立派な絨毯が敷いてあった
さっきよりも ダイナミックに踊る血は
 赤い立派な絨毯の上に 音になって消える

 したっ したっ したっ 
            ぴっ ぴっ ぴっ
  したっ したっ したっ 
             ぴっ ぴっ

10
階段を登るのさ
一番上の一番左側
流れる血とダンスさ
赤い絨毯が 丸くなる

11
彼女の部屋のドアは開いていました

好奇心と二人で 中をのぞくと
 お姫さまが 笑って中へ どうぞ と入れてくれました
彼女は ぼくの 踊り疲れて力の入らない腕をみて
 そっと 撫でてくれました
血は踊るのをやめて
 まるで 踊らなくなって
 丸くなった絨毯と一緒に眠りました  

12
彼女は ぼくの ケムクジャラの腕に 
       白いキレイを巻いてくれたのさ
彼女は ぼくの 首の下 や 裏 を 
          優しく撫でてくれたのさ
ぼくは 暖かさに気持ちよくなって
       何度も眠りそうになったけど
ひどく眠りたくなくて 目は絶対に閉じなかったんだ

   立派なお城の門がぼくを入れなかったように
   ケムクジャラは眠りを入れない
   しかし ケムクジャラがお城に入ったように
   眠りは ぼくに入ってくる

その後 彼女と 絡まってほどけない毛糸で遊んだ

彼女は ぼくのケムクジャラ頭を撫でたり
ぼくは 彼女のきれいな髪を触ったりした

   ぼくが 一番上の一番左側の窓から 眺めた景色は
   眠りが ぼくのこゝろで 触れたものと同じだろう

ぼくは眠ってしまったんだ

13
もう
 トランペット も すず も ぼく も 
                  いなかった
夢をみた
ぼくとお姫さまは 絡まった毛糸で遊んでいた
 足首に巻いたり
 手首に巻いて
  首に巻け

14
ぼくの視界は 
 目の表面をみて
 
  赤い三角をみて
  赤いお城をみて
  赤い絨毯をみて
 
  一番きれいな赤があって
  一番赤い赤だ

  赤いキレイをみて
  真っ赤なぼくだ

 目の裏側をみた

15
夢に続きなんてないだろ?
だから 全部夢だったんだ
まるで ぼく まで夢だ

0
プリンスは憎い奴だ
 だって 
  あいつは ぼくを殺したんだからな

文学極道

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