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Osa - 2013年分

選出作品 (投稿日時順 / 全1作)

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沈みゆく船の中で

  Osa



私は沈みゆく船の中で目が覚めた。嗚呼、海は怖いと口にしながら、私は湿った風の中で鼻歌を押殺し、静かに水面に足を近づけてみると、深い緑色の海が鉛色に変わっていった。滑らかな鏡の様な揺れを、一つ一つ目で追うごとに、私は悲鳴をあげた。この産まれたという合図に、ぞろぞろ、ぞろぞろと、水面から顔を出したのは女や男たちで、それは知らない人の顔ではあったが、祝福をされているのが私にでも分かった。そのとき、私の両足は足の裏だけが水面を撫でているという、そこだけが鉛色をしているという不思議なものだった。その時、大きな波が来て私の身体を濡らしていった。その手は母親だと言うように私を撫でたが、産まれたばかりの私にはそれが恐ろしかった。

母は何度も私を抱こうとしたが、船がそれを許さなかった。私は羊水から出たばかりの赤ん坊の様に何度も呼吸をすることに必死になった。甲板の上で鼠の一族たちが右往左往しているのを見て、それから黒く足の多い虫たちが動き回る姿を見ても、ぞっとする事は無かった。私はその中の一匹を摘まんで、それが腕へ這い上がってくるのを微笑ましく眺めた。手を高く上げ、指先を一つにまとめると、一番高い所から、虫は飛んで行ってしまった。沈みゆく船の中で目覚める前のことを思い出すと、鼻歌を歌っていた理由が段々と分かってくる気がした。

死ぬ前には分からなかった虫たちの名前が、少しだけ分かってくる。死ぬ前には握りつぶしていた虫や見向きもしなかった花や獣が、生まれ変わりのように思えて、今はこんなにも愛しい。水面から顔を出している男や女が、祝福してくれているのが分かる、今日は誰にとっての祝福すべき日なのだろう。滑らかな鏡の様に私も揺れると、そこには私が映っていた。たった一匹の虫が、死ぬ前には握りつぶしていた虫が、生まれ変わりのように思えて私はそのまま海へ生まれ落ちた。

文学極道

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