肌触りの悪い、角ばったこぶし大ほどの岩石に波が立った
気味の悪い波紋を描き出しながら岩石は揺れ、そして表面に少女の顔を作り出した
片方の目は開いておらず、口も完全にはできてはいない
しかし、大きく開かれた右目はしっかりと、確実に前を向いている
固い鉱物同士を擦り合わせるような音を立てながら口を動かし
ひどくもの珍しそうに眼球を独楽のように回転させている
鼻孔はただの飾りのようで、その小さな鼻はとてもかわいらしい
まだ幼いながらもはっきりとしたその顔は
岩石の持つ非生物的な灰色ではなく、しっとりとした肌の色に包まれている
次第に右の眼球の動きがおとなしくなると、左目がゆっくりと開き始めた
左目であるはずのところの岩石が削られ、変異し、溶け出していく
右目の動きが止まった時、左目には深い穴が開いていた
全体の岩石の大きさからは考えられないような、深い穴が開いていた
僕はその穴を覗いてみた
右目を大きく開けて、懐中電灯で照らしてみた
そこは、生命の洞窟であった
少女の左目から生命が噴き出し、僕の右目に食いついた
右目は無機質な岩石と成り果て、削り取られ、溶かされた
僕の右目は生命の住処となった
一瞬の生命の萌芽のにおいを嗅ぎ付けたのか
僕の副鼻腔の奥に潜む、妄想体の塊が暴れ出した
顔を持つ忌々しい妄想が、ついに活動を始めたのだ
この妄想どもは小さな棘のある舌で骨を削り取り、右目の生命に襲いかかる
少女の生命を僕の妄想体が包み始める
血管の拍動に合わせたリズムでどんどんと包み込んでいく
曖昧だったはずの輪郭をはっきりさせつつ、すでに均一化された妄想の集団が生命を包み込む
自立した妄想体は少女の生命を自身の中に生かすことで進化の権利を勝ち取った
この世界で、生命体たりうる可能性を得たのだ
さあ、僕の体はお前らの繭であり、生きる場であり、シャーレに過ぎない
この柔らかな隔壁を一度でも破ってみろ
高濃度の毒素にやられて、お前らは死滅してしまう
さあ、早くこの地獄へ飛び出してゆけ
少女の右目が動き始める前に
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Lichida
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- [佳] 想像の生まれ (2014-09)
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