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木下

選出作品 (投稿日時順 / 全1作)

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馬の死

  木下

窓を開けっ放しにすると馬が入ってくるぞ
と、生前祖父はよく言っていた
私にはその意味がわからず、
祖父もまた同様だった

ただ一点だけ見つめることを強要された
猿の人形と目が合い
大きな掌でコンマを打った
ビンタを受けた私は一滴の、
冬の海だったかも知れない
子供たちの賛美歌が
聞こえたと思い振り返ると
パズルでできた祖父が居る
あの日、完成した祖父は
ピンセットの先で最後のなぞなぞに答えられず
いとも簡単に崩れてしまった
部屋中に散らばる祖父、
時間を受け入れられず精子のように中空を泳ぐ
私の瞳に触れる精子
くしゃみ

テーブルクロスに落ちた染みから
或いはトンネルの向こうから
深い闇が馬の頭を持って吹きだしてくる
一頭、また一頭
私の体に増える黒い穴
午後の片側が真っ黒に染められて
もう片側は隠れていた子供たちで埋まった
一人の子がホームシックにかかると
ドミノ倒しになって子供たちは皆裏返ってしまった
その上を黒馬たちが駈けてゆく、
世界と握手した時から
その時から海は戦慄いて
あなたの大切なものまで
全部、裏返してしまいそう

チェス盤の上で巨大な手が黒のナイトを配置する
黒のナイトは動物的に悲鳴を上げた

あの日ーー
必要とされて
今はもう、居ない、
あの日何度も死なせてしまった
私の影が、私の為に、どこまでも走ってくれたあの日の私たちが
手の中で、冷たくなってゆく、うっすら見開いた
穴の外から見た、ループ、
腰を振る
歯車が廻る
決、して暴かれることない、塊それは、
柔らかな心臓のように、万力の中、で潰される
心臓のように
これから馬は、また私に殺され、る
日が来て、新しい私を、貴方のように
何度も、
何度も、
生かしてゆく

雨脚が途絶え、空に一瞬の光が走った時、
雷では無かった
黒馬は白のナイトに囲まれていて
いとも簡単に白く、塗りつぶされてしまった
足もとに溜まった白い感触
雨の洗礼でテーブルは水浸しに
馬はこの世に
生まれてしまう
風景はいっそう女性的に迫ってくるのに
配置された私は一匹の
動物の剥製だった

文学極道

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