雪だるま。
赤や青のバケツ。
なかにはニット帽をかぶったのもいたり。
けど、ベッドに入るまえにはなかったはず。
チェロの枯葉が庭にいっぱい。
それがいつもの眺め。
パパの、ウィスキー色の眺めとおなじ。
ママはキッチンの窓からの眺めに愛されていた。
鹿の角みたいな木しかみえない窓。
雪だるまの目にはコカ・コーラの空き瓶。
厚いガラスのなかには、煙草の吸殻。
鱒の肌に似てる空には
まだ、朝日はみえない。
寒い日には、映写機を廻す。
自慢気に、新車のムスタングの前でポーズするパパが映る。
僕に向かって声のない声。
でも、これは過去の声、過去のまなざし。
歴史家なら、過去も現在もおなじだというかもしれない。
ロッキングチェアを、チェロの木のそばで焼いたのも過去、いまもパパは同じ目の色をしてるのも。
雪だるま。
朝日に照らされるまえに、なくなって。
枯葉が濡れて見えた。
最新情報
水野 英一
ある年表の一節より
水野 英一
ある年表の一節より
水野 英一
タンクローリーが国道を悠々と流れていた。
ほかには外灯があるだけで。
蛾や羽根虫が漂っている。
エンジンの音の響き。
船室のなかで眠ったときを思いだす。
音をかき分けるように壁のむこうでパパの声が聞こえる。
コップに浮かぶ滴。
机には飲みかけのジンジャエール。
それにカメラ。
そばにはビー玉。
そのビー玉が落ちる。
アクセルを踏む。
ハンドルを切る。
タンクローリーの横を加速する。
目のなかで、光りが白くなる。
波が足にまとわりつく。
ボールが脛にぶつかってくる。
振り返る。
パパが手を振っていた。
ボールをつかもうと、かがむ。
けど、波に引かれる。
ビー玉は床を転がる。
窓の外をパパの姿が過ぎり部屋を暗くする。
カーブになるとタンクローリーは見えなくなった。