たとえば こどもが
すこしふるえながら
母に差しだした悲しみのように
だれに教わることもなく
空を見失うことをおぼえてしまう
おもいのままに
鳥たちは飛んでいるのだろうか
そんな幼い問いにさえ
こたえる術をもたない
わたしらは
ただ
積みかさねても
くずれおちても
ひかりのまぶしさに
初めて出会ったときのように
めをとじて
いくばくかの
やさしい歌のなごりや
肌寒い抱擁に身をまかせて
かわいたのどで
あとかたもなく溶けてしまう
たわいもない秘密のように
生まれたことと
生きることの谷間で
苦笑う影をふみながら
見おぼえのない
やけどのあとに首をかしげて
もえさかる
夏の雨にうたれて
だれに教わることもなく
羽根をふるわせる蝉たちが
羽根を失いながら おしみなく
差しだした沈黙
焼け落ちてゆく空のために
手をつながれたわたしらが
この世の果てから
帰ってくる
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左京
この世の果て
左京
駅のかたすみで
左京
駅のかたすみで
女が
古い紙片のように
からだをちいさく折りまげていた
あなたには
ことばはいらなかった
ことばがあなたを使いはたす前に
あなたを見失ったのだから
冬にまみれた衣服のしたで
のこりわずかなはじらいに
暖をとりながら
ざわめく駅のかたすみで
親をなくした子のように
赤切れた手を握りしめている