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岩尾忍 - 2012年分

選出作品 (投稿日時順 / 全1作)

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20120116

  岩尾忍

 いつもと同じで重力があって歩く。そして駅だと思う。監視中なのだと。ホームの端に立って、子供だから、盗んだ液体を舌に届くまで吸った。匂いや味。知っておいた方がいいこと。それからおもむろにストローを引き抜いて、呼気を詰め込んでばかげた球をつくる。これなら確実に浮く。何を言われても返す言葉がない。いやあの、口がふさがってまして。非常な高速で流動する虹色、その合間に製造業が見える。走りだし、走ってきた電車に乗って、その電車が走りすぎるのを見送る。それから私はどうしたかと言いますと、死んでも息だけしつづけていました。と後から報告された。てめえまじめにやれや。
 県立図書館の地下一階と一階の間のやる気のない階段通路で、行き交う金属と金属探知機に挟まれ、昨日と明日の雨模様について座学。旅行とはどうすることだろう。365ページ目の後にね、あるんですよ。野球のできそうなだだっぴろい空地が。いまどき珍しく。そして片隅の曲がった木の下には、誰にも言わないでくださいよ、実は・・・ しかし冷静に思い出してみても、だ。パラパラまんがが描かれてたりしたぜ。生物の教科書の、最初のページから最後のページまで。
 夕方に帰宅して、米を炊いて食う。幸せだ。
 標識がありすぎて、毎日誰かが頭からぶつかって死ぬ。車より人間が多い。「電子レンジにかけないでください」の中で、最も正しいと思うものに○をつけなさい。それから手足のたたみ方を習う。ああきっとあの穴にはいれる、君だってはいれる、と祖父母のグループがテレビで歌っている。墓ならいりませんよ。ごみになるだけだし。ようやく口をあけて言えたが、あいにく私がいない。なんでそう、そんなに、みんな、そうやって地面から生えるの、とひとしきり泣いてもみたが、時間になったので適当に切り上げた。盗んだってってもさ、トイレにあったんだ。そのくらいいいよね、と人生が有意義だ。

文学極道

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