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異邦人

選出作品 (投稿日時順 / 全1作)

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黒猫の雨

  異邦人


夥しい微生物が
欄干の物干竿に
吊り下がっている
人の肌には
鱗があるので
水のない国では
暮らせないだろう
海から山から平地から
砂漠まで正体不明の
微生物が漂っている
生物からは有機物の
発散が起きて
人間の鼻に吸い込まれる
花と蜜蜂は婚約者達の
祝福の為の愛の筆跡である
転がり込む羅漢の粗雑さは
山猫お断りのBARに相当する
通り雨の暗い裏道に
黒猫が私の目から逃れようとする
覚束ない濡れた服は
やはり微生物の匂いがして
甚だ遺憾だ
憂鬱か哀愁か
定かではないけれど
独り身のアパートの
インテリアは心を慰めてくれる
もしも
この狭い部屋に暖炉が有れば
こんなに冷たく震えることも無いだろう
ふとテーブルの
花瓶に目をやると
ワインボトルを連想する
こんな暮らしでは
どうにもならないので
グラスにワインを流し込む
やはり私は暖炉を想像して
冷たい雨に打たれているかもしれない
黒猫を思い不安定な情緒で座っている
こんな風だから
独り身の夜を迎える前に
あの先ほどの黒猫を
抱きしめたいと涙を流す
ワインをそっとゆっくりひっそりと
のんでいる私は
ふと寂しさに気落ちしてしまう
偶然の出会いが
もたらした今日の夜は
何かの象徴だろう
雨の音の様に
波打つ情緒はさっきの
鋭い眩しく光る眼光のせいだろう
さすがに
嫌気がさして疲れた心身を
休ませるため眠りに就く
朝目が覚めて
たぶん今朝見ていた夢は
空からたくさん黒猫が
降ってくる場面に決まっている
ただはっきりと今思えるのは
寂しい存在なのは
微生物でも黒猫でもなく
倦怠な毎日を送っている私の方だろう 

文学極道

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