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くま

選出作品 (投稿日時順 / 全1作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


週末はやりきれなくて

  くま

 
(1)
油っこい金曜日の夜を
一気に流し込む
それは版画の中の雨で
強く強くまっすぐに
地面に打ちつける
定規の雨
ロシアの彼女がその線に
そっと触れれば
打ち解けた彫刻刀は
優しくわたしを削っていく
そうして美しい胃の形へ
気持ちは収まっていくのだった

(2)
欠点だらけの砂糖を
あまりに作りすぎてしまったから
金曜日、珈琲の川に流しに行ったよ
本当はひとつぶひとつぶに
細かく長い名前が付いていたんだけれど
もう昔のことすぎちゃって
覚えていないの
そう言ったら
ロシアの彼女は
じゃあ珈琲を飲むときに
またそれは思い出せるのね
と、小さく笑うのだった

(3)
安いパンプスで
駅の階段を毎日歩くから
いつしか金曜日には
ヒールの高さがだいぶすり減っていた
すべりやすくなっていた心と
ひっきりなしにやってくる雨が
わたしをトイレへと駆り立てた
白い泡がぶくぶくと浮かんだから
少しは糖分を吐き出せたみたい
良かった
また過ちを犯すところでした

(4)
三匹のらくだは北へ向かっていた
確実に迫り来る金曜日から
逃れるために
しかし時々聴こえる
油っこいボンゴレの話し声が
彼らの瞳を悲しくさせた
その手に持っているアルバムの名前は
シュガーフィルムズ
雨の日の思い出ばかりを集めた
輝いたはずの日々
いつしからくだは一匹一匹と消え
街の明かりへと姿を変えた
土曜日まであと2時間
というところまで来ていた

(5)
わたしは珈琲が飲めない
だから過去のことは
思い出せなくて済んだ
何度金曜日が訪れても
今日のことは忘れてしまえるのだろう
らくだに乗っていた記憶も
駅の掃除係に砂ごと払われてしまった
かばんの中を見てみれば
喫茶店でもらった砂糖だけ
砂の代わりにと
店主が気遣いで入れてくれたものだった
アルバムには
母国に帰ったはずの彼女
きっとカメラは壊れている
本当のことなど
何一つ写ってはいなかったから

文学極道

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