選出作品

作品 - 20201001_276_12137p

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沈黙を集めた鉱物の名前と人の息の長さ

  なまえをたべたなまえ

覚える

 白、と、雪の単語を覚えた口が白くも冷たくもならない事に気づいた子供の手に触れて、体温、と、温かい、と単語を教える私の唇が、子供の頬と同じように赤く、繋がりは常に赤に象徴される。血のように。言葉には色がない。だから、私と言葉はいつも繋がらない。言葉がなくても、私と子供は繋がる。いつか詩を教える。きっと、それは、彼が大人になる前に。

砂糖

 子供の頃、死んだ蛙に塩を盛るつもりが、間違って砂糖を盛った事があった。母が、それは砂糖だよ。舐めたらわかるよ、塩を盛らないといけないよ、と私に言ったので、私は、母がいなくなった後、蛙に持った砂糖を舐めた。甘さに死は混ざらない。死を知るのに、味覚では足りない。概念を舐めることはできない。だから、未だ、人を舐めたことがない。

鉱物性植物

 通勤中に突然浮かんだ。そうだ、鉱物性植物の図鑑を作ろう、と、いったいその植物がどんなものかも検討がつかなかった。いつもこうだ。まず、単語やフレーズが浮かんでからすべてが始める。鉱物のような硬度を誇るのか、土中に生育しているのか、花は宝石か、根は鉱脈の様に、輝いているのか。即身仏―永遠の瞑想のために、衆生救済のために、生と死の狭間で弥勒を待つ姿―が植物性鉱物のイメージの元にあることをその後気づいて、図鑑を作るのをやめた。生と死、植物と鉱物、混ざらないものが混ざって、どちらでもあると同時にどちらでもないものを編纂することは、どちらでもあると同時にどちらでもあるものを、何かにしてしまう気がして。



 白く吐かれては消えていく。凍えている間は見える。生きていることと死んでいくこと、どちらも白で象徴される事がある。相反する二つがどうして、白で?。生は白、死は黒、死神は黒、死装束は白、砂糖と塩は白、で、腐敗は黒で。私の肌は黄色で、白人は白く、黒人は黒く。私の書くものは、何色?息の様に、凍える時にだけ白く、見えるものがいい。

賢治

 妹との別れは、永遠、永劫の別れだ。法華経の世界では、死後、人は輪廻を繰り返す。私たちは私ではない何かに生まれてまた死んでいく。それを永劫繰り返す。まさに輪廻の世界だ。私は輪廻すれば母も父もすべて忘れてしまうが、また、輪廻し続ける限り、私ではなくなった私が、母ではなくなった母や父ではなくなった父ともしかしたらまたこの世界のどこか出会い、出会い続けながら死に続け、生き続け。では、今いる私は?今いる私の母は?死に続ける、生き続ける、どちらも重なり合って続いていく永劫に。私は一体誰だ?生きているのか、死んでいるのか、生き続けているのか、死に続けているのか、私は私でないものを続けているのか。

長く

 あまりにも長く人であり続ける、というフレーズが浮かんでから、ずっと、あまりにも、の意味を考えている。人の間を離れて、人でないものの間に入っている時期があった。動物達は、短く死んでいく。場合によっては、殺されていく計画的に。私たちは、人は、あまりにも長く人であり続ける、ことの重さを考え続けている間にも、また、人以外のものは計画的に殺されていくの私は知っている。人であり続ける、一瞬でも良いから、人でないあり方に、ありたい、と、思うときに、動物達の寝息が聞こえる。あまりにも長く、長く、人が人であり続ける、覚めている間に見る夢は、本当は見ることができないもので、それは現実でしかない。だから、ずっと夢を見ている。

息を潜める

 息を潜める為に、詩を書いている。息を潜めて、人でないものに出会うための、人でないものの間に入っていくために、息を潜める。人であることを忘れる瞬間のために。長く、息をついで、長く、息を潜める。鉱物の様に静かに、即身仏の様に、弥勒の到来を待って、長く息を続け瞑想のために。





2984年の悲しみと青い映画について


青い映画について、
駱駝と話す、赤い言語、
共産党員と、トイレットの、
真昼の発音、

―英語が全部学習された
 だから、編み物の、
 発音を、冬に温めて、
 夏に、水浸しにする、
 羊、と、Sheep
 の、間にひかれた、
 赤道、
 ppp、
 いえ、ぷぷぷ、
 です、
 濁点を足したら、
 走り出したね、
 オフロードは、
 詩に似合わない単語、
 いや、詩人に
 似合わない、単語、
 詩人は、
 頭が悪いから、
 優しい、数学ができない、
 優生学的に、
 死んでいる人々へ

 悲しい出来事が起こっている、
 だから戦争だ、
 悲しみを、
 餌に、
 鱒刷りを、
 アメリカと、
 カーディガン、
 ブの、音が辛い、
 ブカブカの、音が
 本当につらい、
 編まれたのだから、
 ジープみたいに、
 ブロロロ、って、

 あ、

 ブローディガン

 現代詩もまともに書けない人が、
 人の詩を読んで、
 批評してる、
 腐ってるね、
 ああ、
 腐ってる、
 
 漫画とJPOPしか知らない
 人が、人の詩を読んで、
 詩を書いてる、
 悲惨だね、
 それも、良い年した
 おっさんやおばさんがそうだ、
 可哀そう、

 映画は、まだ、
 雨を知らない、
 だから、ずっと青い、
 ケンジみたいだね、
 ずっと、あの冬の日
 から、青ざめてる
 ケンジだね、
 2984年から、
 2984匹の動物達へ、
 101号室から愛をこめて、
 
 
 かなしみと動物達は
 透明な唾液で結ばれていた
 それを、私は
 トトカカイイキキ、と
 名付けて
 叫んだ、
 皆、気が狂った、と、
 私を見て、言った、
 夢を見なさい、
 生暖かい雨に
 吐き気のするような
 人の気配、
 夢を見なさい、
 晴天だ、
 

 生活に、鉛をつけて、
 深く落とすとき、
 子供の背骨が、
 折れる音と、
 羊が
 Sheepになるために、
 焼かれていく、
 匂いがする部屋へ、
 blue、と、
 青い、つまり、
 タケシは、
 映画を、とめて、
 ケンジを撮らないで、
 
 第四次延長は、
 人が決壊する、
 地点、
 駅名は、
 ghost、つまり、
 魂は、青白く、
 熱をもたらして、
 点灯する、
 この、映画は、
 青く塗りつぶされている、

 詩を、失う、
 つまり、
 ケンジ ミヤザワ
 を失う、
 故郷は、
 映画に塗りつぶされた
 青だ、
 魂だけが、
 人の気配をもって、
 ぼんやりと、
 明滅を、
 繰り返して、
 私が、照明する、

 消灯、
 閉館の時間です、
 魂は、
 ポケットにしまって、
 貴方の顔は、
 青ざめています、
 あの、雪の日の様に、
 静脈が、青く青く、
 浮かび上がった、
 晴れた、今
 地獄だけが青くて