選出作品

作品 - 20200905_703_12091p

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(浅利の)

  田中恭平



浅利の
貝殻を
ひらいてみると
手に負えない、にくい
そして致し方ない
ひきこもり性、
のような貝柱で
中身がしっかりとはりついている


わたしはある男性から
村上春樹の「海辺のカフカ」上下巻を
借り受けていて
読んで返しにいくと
本のことなど一切、聞かれず、問われず
男性はそれを
ただ邪魔な物のように
面倒臭そうにとると
家のなかにひきあげてしまったが
わたしはその態度に
あたたかい父性を感じた

まるで本は
嗜好品に過ぎないように
嗜好品それにも劣るように
それから感じられ
そうだ
ひとときの感動で
本を愛することはできない
感動は
すぐに胡散してしまう
ものの類なのだから
わたしは
今宵も本を分解する、破壊する
それがいつか
組み立てられていった様を
そっと、想像、したりしながら