感じるものだけの世界で
年輪を重ねていく森
柔らかな土の匂いが
耳の聞こえない子を包む
子は初夏の日差しを
掬っては私の口に運ぶ
鈍麻した感情の為に
薬剤で全身を冒している
死体を防腐剤に浸すだけの
やぶ医者しかいない街で
雑踏を啄む片足の鳩
死んでいない、今はまだ
長いこと知らなかった平和が
ある日不意に日常に達して
無暗にチーズを齧りながら
いつから幸せだったのか
果てようとしたのか考える
うつろへといざなう声で
吠える巨躯の哺乳類
人知の及ばない所で
何かの化け物が笑っているのに
天使の羽ばたきは遠い
選出作品
作品 - 20200701_298_11983p
- [佳] 展翅 - ネン (2020-07)
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展翅
ネン