選出作品

作品 - 20200229_185_11731p

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まつろわぬ神

  kale

湖の淵に腰かけて足を浸している、とうの昔に干上がってしまったわたしに足を浸すわたしがいる。
ひび割れた湖底に散乱するのは夕陽にやがて溶けるだろう素魚の赤橙色に斑(まだら)む背骨の曲線、小白鳥の軽さだけを詰め込んだ翼骨のその構造、しなやかな筋肉を支えるための羚羊の大腿骨は、生前の記憶をほころばせ色素をたゆませていた。涸れるために要した時間の厚みを足さきで繰(く)るように測りながらそんなことを。
アルベドの丘を駆けあがり磔刑に処される人をみた。素魚の背が光の入射角をもてあそんでいる。黒檜の葉を反芻する羚羊は身じろぎもせず此方をみている。いつか溺れて息絶えた小白鳥の白さはわたしの色素のひとつとなったのだろうか。
遠い場所からまた違う遠い場所へ、干上がってしまったわたしには時間だけが満たされ続けて決して欠けることはない。