選出作品

作品 - 20200104_678_11663p

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ミネラルショップの片隅で。

  湯煙


手にする、
鯨の耳石、
を、

反りのある姿形、くすんだ黒、
しめやかにつやを帯びた、

横長の、
ずんぐりとした楕円に近く、
内側にカーブする、
刻む、
大小の渦巻き、

掌に包みこむ、
しっかりとした重量、
ひんやりと、
しみこんでくる静謐、

想像の川を、
思考の網を、
ゆるやかにくだり、
ひもとき、
流氷のささやき、
に誘われていく、

  *

大学病院で
精密検査を受けた

遠くでかすかに
断続的に流されている
微細な機械音

手元のボタンを押せば
大きく右側へぶれる
その
機器の針は停止していた

 ーーー現代では不可能です
 ーーー大きな音は避けてください
 ーーー医療は日進月歩ですから

 と医師は
 わたしを見て言った

(残る右耳を大事にしなさい
(可能となる日を待ちなさい
 
 そういうことだった

 ーーーゲンダイイガク  アナタ  ノ   イマス

 ーーースベテノ  サケテ イ クダサ


慰めや同情は
人の脳に備わる働きなのだろう
沈黙がはりついている

言いあらわすことのできない
言いつくすことができないものたち

   *
   
 人の手を離れ、  
 海原をめぐりつづける。  

 止むことを知らない、 
 喧騒のなか。
    

    
      (ーーー治療は不要です












鯨類に属する生き物たちにはエコーロケーションという、超音波による周辺情報の把握や餌の採取、仲間との意思疎通を行う働きが備わっているとされている。音の受動と伝達は骨伝導による。また、耳の穴はふさがり耳殻を持たないという。ーーー wikipediaより