手にする、
鯨の耳石、
を、
反りのある姿形、くすんだ黒、
しめやかにつやを帯びた、
横長の、
ずんぐりとした楕円に近く、
内側にカーブする、
刻む、
大小の渦巻き、
掌に包みこむ、
しっかりとした重量、
ひんやりと、
しみこんでくる静謐、
想像の川を、
思考の網を、
ゆるやかにくだり、
ひもとき、
流氷のささやき、
に誘われていく、
*
大学病院で
精密検査を受けた
遠くでかすかに
断続的に流されている
微細な機械音
手元のボタンを押せば
大きく右側へぶれる
その
機器の針は停止していた
ーーー現代では不可能です
ーーー大きな音は避けてください
ーーー医療は日進月歩ですから
と医師は
わたしを見て言った
(残る右耳を大事にしなさい
(可能となる日を待ちなさい
そういうことだった
ーーーゲンダイイガク アナタ ノ イマス
ーーースベテノ サケテ イ クダサ
慰めや同情は
人の脳に備わる働きなのだろう
沈黙がはりついている
言いあらわすことのできない
言いつくすことができないものたち
*
人の手を離れ、
海原をめぐりつづける。
止むことを知らない、
喧騒のなか。
(ーーー治療は不要です
∴
鯨類に属する生き物たちにはエコーロケーションという、超音波による周辺情報の把握や餌の採取、仲間との意思疎通を行う働きが備わっているとされている。音の受動と伝達は骨伝導による。また、耳の穴はふさがり耳殻を持たないという。ーーー wikipediaより
選出作品
作品 - 20200104_678_11663p
- [優] ミネラルショップの片隅で。 - 湯煙 (2020-01)
* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。
ミネラルショップの片隅で。
湯煙