師走の風が、水面を撫ぜる
波紋は
幾重にも広がり
水中に潜む
数百もの目玉を
一斉に躍らせる
水草が、
痙攣する指先のように、
ゆらゆらと
揺蕩う。
河川敷では、赤子が泣いて
涙は
母親が拭い捨て
眼球に潜む
自らの瞳には
一筋の水跡
赤子は、
水平線をなぞるように、
だあだあと
手を伸ばす。
肌をさす風に、隣人の温もりを思う
夕陽は
郷愁を誘う絵画のように、
水面を照らす。
明々と照らされた赤子を見た隣人は
「かわいい」
と、
明々と照らされた頬をほころばせ、
指先に力を込めた。
私の背にした水面には、
幾重にも広がった波紋が、
明々と、
照らされているのだろう
選出作品
作品 - 20191120_923_11569p
- [優] 絶景 - 左部右人 (2019-11)
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絶景
左部右人