選出作品

作品 - 20190824_717_11409p

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てんごく

  水漏綾

深いしじまに身を寄せて
寒がっていた、東京
日々は逡巡して
歩きだそうとはせず
身近にいてくれたのは
すこし汚い、やさしさです

生はどうだと
ひとは問うけれども
死ぬことが痛いことなのは
とうの昔で
ランドセルが赤黒の二色から
カラフルに選べるように
なったことと大差なく

敬虔なクリスチャンの
メダイは白い素肌の
上に身を潜め
草臥れたホームレスの
ねがいは黒い地肌の
下に身を潜めた

わたしは
知らないことが
美しいことだと
勘違いを重ねていく

あなたは
虫歯がひどく痛むときは
きまって星が綺麗だと
てんごくみたいな、ことをいった。