その椅子はどこにあるのですか?
木製のベンチに根ざしたみたいな
ひょろ長い老人にたずねると
そら、にとぽつり言葉を置いて
眼球をぐるり、と回して黙りこむ
そら、空、いや宇宙だろうか
その椅子に誰が座るのだろう
とても永いあいだ空だという
その椅子に、誰が座るのだろう
あまりにも晴れ渡る空を眺めて
様々な言葉をその椅子に座らせてみたが
雲という雲が流れてきてすっかりそれを
隠してしまうのだ
その椅子にいったい
誰が座っていたというのだろう
ひょろ長い老人の微笑む皺のなか
その誰かがひょい、と顔をだしはしないか
老人の愛した誰かだろうか?
あるいは憎んだ誰かだろうか?
それとも、それとも、それとも……
話してないことも話したことも
あの皺には刻まれているだろう
その数だけ椅子があらゆる形や大きさ
重さでふわふわと漂っていて、やがて
そこにはぼくもひょろ長い老人もいて
椅子は椅子としてあらゆるものを
受け入れながら雲のように形を変えて
皆んな誰かの記憶のなか
そらの椅子に腰かけ漂っている
選出作品
作品 - 20190727_232_11346p
- [優] そらの椅子 - 帆場蔵人 (2019-07)
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そらの椅子
帆場蔵人