選出作品

作品 - 20181101_615_10860p

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ざくろ/きらきら

  中田満帆

ざくろ


 その男はいった、
 息子が死んだよりも柘榴が折れてしまったのが
 なによりもかなしいと
 その木は根元から大きな嵐と抱き合って 
 そのまま死んでいた
 その男は柘榴を燃やし、
 その灰を柩にした
 そして黄昏の光りのような女と暮らし、
 やがて死を迎えた

 その妻はいった、
 あなたが死ぬよりも
 あなたのかつての息子が死んだのがかなしいと
 かれは咽に林檎をつまらせて死んだ
 かれはいまも墓に葬られず、
 埃をかむった闇のなかで眠る


きらきら


 すべての訓示をやぶり棄てたときから、 
 そうしてふたたび滝のおとが失せた
 あまりにねぐるしい、
 にんげんの家で
 だれもが耳を
 欹てる
 たったひとりぼくは廚で麺麭を焼いてる
 だれかが庭で黄葉を踏む
 たしかに滝は枯れてしまったんだ。 

   *

 斑鳩の空にいまだ、
 たどり着いてないというのに
 もうきみは眠くなって、
 ぼくにだだをいう
 それでも、
 決してはなれないでいる
 それはやさしさのためでなく、
 最愛を滅ぼすため、
 見なよ、
 柘榴の木が燃えてる。

   *

 鶺鴒の森は焼かれ、
 打たれるがまま、
 欲しいままにされて、
 うつくしく濁る、
 水よ、
 水よ、
 石の柩にきみは跨がって、
 黄金水を放てばいい
 報いをくれてやれ、
 塔の主に、
 城の主たちに、 
 かれらは遁れ、けものがれ、
 われらは両目をつりあげて、
 やがて狐となりました。

   *
  
 きらきらっ、
 光りがまぶしいね
 きらきら、
 光りがきれいだね
 きらきらっ、
 みんなと一緒だから怖くないって、
 きらきら、
 ないにも見えない、もう聞えない
 きらきらっ、
 きみはもういない
 きらきら、
 斑鳩の果て、
 雲路に、
 毒が、
 混ざっております、 
 あれが鰯雲です。