*
死んでいったもののためにできることはない
去っていったものたちのためにできることもない
だからか、
おれはおれの断片を刻み、
それは麦となり、
荒野なり、
驟雨となる
ぬかるみのなかの眼
おまえはきっと幸せになるだろう
なぜって?
それはおれからはなれていくからだ
麦をしながら
おれは読み、
荒れ野しながら
おれは書く
*
あらゆる天体はおれ自身がうつろであることを告ぐ
あらゆる地層はおれがつかのまでしかないことを捧ぐ
あらゆる生物はみな淘汰されながら生きながらえ
姿を変えることで時代をいなおる
魚が魚であることによって海は青く
狐が狐であることによって森は繁るけれども
ひとがひとであることによって町はぬかるんでる
もはや赦されることなどひとつもなく
おれはきみのかげを踏んづけて遊ぶ
*
死んでいったもののためにできることはない
去っていったものたちのためにできることもない
だからか、
夜更けた通りを中心地まで歩き、
かげで遊びながらずっと、
ずっと遠くにいる、
きみのなまえを
いま呼んでる
選出作品
作品 - 20181015_675_10820p
- [佳] 鉛の塊り - 中田満帆 (2018-10)
* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。
鉛の塊り
中田満帆