選出作品

作品 - 20180530_824_10475p

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一条二条三条四条五条六条七条八条九条十条

  泥棒




一条



ワンワン吠えている
ツーツーとは吠えない
やたらかわいい犬が
猫を背に乗せ
歩いている。
あ、
なるほどね、
休め、メロス
走れ、キリギリス
読書を終え
君は走り出すだろう
本に囲まれた
その部屋から走り出すだろう
犬は休憩中だろう
にゃあ。



二条



薬を2錠のんだよ
意味と無意味の薬だよ
黄色と青
で、
赤はない
立ち止まれない街で
君は
音楽のように
日記をつけている
誰もいない料理屋で
運ばれるのは
運命



三条



三丁目の八百屋の前で
殴る蹴る
ドカッ。
バキッ。
ゲホッ。
詩人を大根で殴り倒し
キャベツをバリバリ食べ
陽が沈む、
むむ、
嫌われたっていいじゃない
天才だもの
野菜が嫌いだっていいじゃない
ライオンだもの
何も知らなくたっていいじゃない
賢者だもの
くだもの好きなんだもの
くだらない
あまりにくだらないこと
魔が差して
つい書いてしまった
反省!
痛す痛す(いたすいたす
もう寝よう
眠す眠す(ねむすねむす
星の夜
寒す寒す(さむすさむす



四条



夕方四時
ホームセンターへ行って
電動ドリルを買って
頭に穴を開けて
街の流れを見ていたよ
痛くて
とても痛くて
頭蓋骨が砕ける音は
激しい音楽のようではなく
逆に静かでした
血が止まらないから
帰りに薬局へ行って
包帯と痛み止めの薬を買って
コンビニへも寄って
ビールとお菓子を買って
今夜
たまには詩でも書いて
寝ます
おやすみなさい



五条



これで
五回目だが
もう一度言う
君はクズである
それは紛れもない事実である
さらにはクソでもある
そんなクズでありクソでもある君が
花を咲かせるなら
その瞬間に
私はそばにいたい
その花の名前を知りたい
君のこと
もっと知りたいんだ



六条



ガラス箱の中みたいな街で
彼と出会った。
地下鉄で
恋人たちは見つめ合う
かのように
出口を探している
正しいね、
終わりのない恋愛なんて
あるのかしら。
私が少女だった頃
親戚のお兄ちゃんが
スカートの中に顔を入れて
こちょこちょして
ふざけながら笑っていたけど
殺してやろうかと思ったな。
お祭りで
親戚みんなが集まって
お酒をのんで
わいわいしていたから
誰も気にしていなかったけれど
あれ、
今にして思うと大問題じゃん。
地下鉄でひとり
うたた寝していたら
思い出したんだ。
あ、
あれ、
違うな、
親戚のお兄ちゃんじゃなくて
自分だったな、
自分で自分のスカートの中に入ったのね。
どゆこと?
夢って脈略ないのね、
お兄ちゃん
ごめん。
池袋駅西口交番から
彼の家までダッシュで六分
うりゃっ、
ガラスを割るみたいに
ページをめくる
詩集は
そうやって読む
それが鉄則。
彼は
ベランダで
指の骨を
ポキポキッと鳴らしていた。



七条



戦場で、
朝食をすませ
創造は、
他人にまかせ
肝臓は、
春をむかえる。

酒豪、あるいは、貧弱の胸、
やや深めのノスタルジーが貴様を襲い
クリスマスが七月にやってくる
それは病という意味で
創造は、やはり、他人にはまかせられない。
そう、貴様は大声で、つぶやく、だろう、

共感、もしくは、破壊活動、
同時進行で始まる
今季マストな誤字脱字を鮮やかにちりばめ
終わりのない物語を
強引に終わらせるのが私の仕事である。

(やあ、諸君、

ピエル·パオロ·パゾリーニ監督の作品を
ひとつでも見たことがあるか
大島が渚で
映画を批判している
貴様のさびしさ
あふれかえる、夕闇、
静かな森で、もしくは、アスファルトの上で、
胸に、個室をつくり、上映する
監督のいない映画のような
物語、
夏の陽射しが
冬の街に
間違えて、降り注ぐ、物語。
できるだけ、はやく、終わらせてやる。

余韻の、ない、世界に、
咲いた、花の、名前は、
強すぎて、誰もが、目を閉じる、
赤い花を
まるで、青い花を見るような目で、眺め、
終わらせなければ、ならない、
私の仕事は、今日も、
誰もいない風景に、
気配だけを
きれいに、もしくは、雑に、並べ
鳥や、猫や、虫に、
主役をまかせ
人間は、皆、エキストラ
助監督は、ラブラドールレトリバー



八条



昼下がり
タバコを買いに行く
マンションの前
大通り
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ
遊歩道
工事中で
ぐるっと
遠回りしないとコンビニへ行けない
タバコを買うのに
8分かかる
スニーカーはナイキ



九条



憲法九条を守ろうぜ!
そう叫ぶ隣人が
現代詩における隠喩を全否定した夜に
超高層ビルの向こうから
ゆっくり叙情が浮かぶ
共感する者は
みんな渋滞にまきこまれる、
朝が近い



十条



批判の雨が降っている
ビニール傘の下で
君は朗読をはじめる
僕は犬の散歩へ行かねばならない
犬とおそろいのレインコートを着て
さらば芸術
海まで10km
近いような遠いような、