選出作品

作品 - 20180519_529_10459p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


天気予報・初夏、二編

  本田憲嵩


   天気予報

まだ晴れている朝
片方の前髪だけ趣向を変えて
より露わになった左半分の肌色が
まるで新調の石鹸かなにかのように光っている
かつては他人の雨傘をほんの少しの間だけ
秘密の甘い果実として共有し合った事もあった
今は其々が其々の雨傘を所有し
玄関隅の円い傘立てだけが
朝の短いキスと同じくらいの空白で
二人の唯一の結節点である
その一瞬の深い夢から目醒める


   初夏

新しい季節は
昼の休憩時間に不意に訪れる
事務机(デスク)に寝そべりながら
その頭髪は午後の陽光にほんのりと茶色に透けている
まだ汚れも老いも知らない
化粧された瑞々しい肌と あどけなさの残る飴色い視線
抗いつつも
まだ着慣れないスーツのように馴染まない
胸の太陽の羽ばたき
そこには初夏のような熱い幸福と
光合成をする新緑のような活力が確かにある
(新しい季節が訪れる
開け放たれた窓から
そう予感する
空の、青い海に入道雲はひろがってゆく