選出作品

作品 - 20180512_206_10438p

  • [佳]   - 鞠ちゃん  (2018-05)

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  鞠ちゃん

雨に濡れ
五月の薔薇が赤々と
寡黙の中に情熱と
品格の襟立てながら
自我の輪郭を描いていた

全てを手に入れ語らずに
在るだけでいい
そんな甘言を聞きたくて
歯並びを矯正するのだろうか

歯のない女は殴られている
歯のない男は貧乏人だ
北の部屋に臥す病人(やまいびと)よ
あなたの灰色のベッドの上の煮え立つ嵐
海鳴りと騒擾のカモメの群れ
ベッドのシーツに落ちた孤独な陰毛よ

花は色
人は心としたためて
別れの言葉くれた友
泣かないで
朝の鏡で口紅を
そっと引いて笑いなさい
薄く煮た
切りはぐった
大根月が見ている

消え入りそうな存在が
そこはかとなく爆(は)ぜている
私ですよ、私ですよと小さな声で歌いながら
ほうじ茶の香が立ち昇る
微笑みのような諦めの怠惰よ
水溜りに映る私よ
世界一素早い雲の上に建てられた
革命の旗のはためきが着物の襟を抜いて見返り美人する
ぽっぽと沸くのを待っている

日常の波、イマージュの雨は温かい
心ささくれて
逆巻くのは私
打ち返しては
瞼(まぶた)瞬(しばた)く
私の瞼の瞬きは
鳥の羽の音を模す
模す、モス、燃す
燃すよ
そんなアイドリング

歌え
鬼のパンツは虎の皮、強いぞ
履こう、履こう鬼のパンツ
胸を叩いて腕を振り校歌を唄っていた幸せな人
私は私の輪郭を作らなきゃならない
泥濘に立ち私の両腕は私を抱く
なにものにも混じる優し気な心と
なにものにも混じらない私を望んで