月明かりと雪の結晶とスミレの花
無人のプラットフォームに落ちるものを
青白い人が拾い集めていく
少し膨らんだポケットから鳴る金属音
零れたものは何色だったのだろう
消えていくチルチルミチルの足跡
伸びた影にうずくまって
夜と溶け合えば孤独にならない
プリンターが吐き出す犠牲者たちは
偽善の中で何も知らず生活していたのにね
鈍重な亀になってしまわないように
象徴にされた小鳥に絡まった重みを
ハンカチで優しく拭いとり
固くなった肩甲骨を広げていく
川底に足をとられたから
地上に撒き散らされた光に気づいた
見開かれた目に映っている平等な朝は
その足元に沈んでいた
分別された灰色のオタマジャクシたち
劣性は潰してしまえばいいのに
背後から中年女のヒステリックな声がする
キュビスムの直線が裂いていく夜
ぱっくりと口を開いたら銀歯が覗く
これはあなたの北極星だ
頭上から初老の男の囁き声がする
二人は通じているから信用ならない
レモンイエローのカプセルが降り
ビニール傘に弾かれる音で掻き消される
足の生えていない白い子どもを探している
オンラインゲームでフレンド申請しては
見知らぬ人の過敏な内臓をまさぐる
液晶ディスプレイに閉じ込めた快感は
ゆっくりと侵食していき
眠りの浅瀬で二枚貝をこじ開けた
螺旋状に巻かれてどこまでも落下していく
更新されていく数値に止まらない耳鳴り
公園の薄暗い街灯に照らされた
古いブランコは揺れながら傾いていく
左利き用のハサミが大きく開かれて
裂けていた夜は完全に切断された
結ばれていたリボンが飛行機雲のように消えて
朝を迎え入れる準備をする
遠くの恋人と重なろうとして
シャガールの絵をよく眺めている
柔らかくなっていく背骨と明けていく青色
雄鶏が鳴いて花束を飾った
軋んだ音をたてるドアの隙間から入り込んだ
緩やかな朝陽をテーブルに招き
ゆでたての卵をひとつずつ食べる
乳を吸う猫たちをサランラップに包んで
手のひらでまあるくする
少し沈むくらいの重さのある温み
幼い頃のわたしに抱かれて
春が抜け出そうとうごうごしている
選出作品
作品 - 20180409_380_10368p
- [佳] 春暁 - 游凪 (2018-04)
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春暁
游凪