選出作品

作品 - 20180322_887_10334p

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森の密売人

  kale

一匹のたぬきと出会ったときの話をしよう。
その公園はひとつの山を利用してつくられた空間で
一周するのに一時間近くかかるであろう池を入口の正面に据えていた
奥まで続く遊歩道を往けばまだ暑くなる前の時季の夜に
星や月の瞬きが打ち寄せる水辺の際に
ゲンジボタルも誘われ姿を見せる。
都会の外れの片田舎にあっても稀有な公園だった。

急激に肥大してきた腹回りの肉を
<自我>と呼んで久しく
後輩からは
妊娠何ヵ月目ですか?www
などと言われたこととは関係なく
休日の早朝にその公園を散歩するようになってからのことだ。
朝晩はまだ冷える春のなかにあって
戦士たちは鋼鉄の船に乗り込み
愛する者たちのために戦う。
戦う相手はいつだって
他者の他者性ではなくて
他者に投影された自己の他者性だ。
それは
車窓に映る誰かの顔の影を凝視しながら
人波を縫って改札から北口へ
逆走する月曜の朝みたいなもので
駅前から目的地までを貫くプロムナード
銀杏並木を通り抜け
等間隔に植えられた
歩行者用の信号が
赤から青へ
いっせいに移り変わる
季節の商店街をすり抜けていく。

永く緩い上り坂を考慮して
あきらかに釣り合わない
短く急な坂道を下ればひろがる。
緑、緑また緑。
深い藍と浅黄の勾配
防砂林から染み出した
微(そよ)ぎは葉鳴りと耳に触れ
到着までの道のりを労う。
駐車場脇の入口から敷地に滑り込めばあらわれる
広大な水面はさざめきに千切られて
またひとつとなろうと四散する
片割れたちを追いかけて
早朝の白い光を乱反射させながら
内側の構造を無防備に晒していた。
いつも決まって時計回りに遊歩道を歩く。
この池にまつわる河童の民話(※1)を思い出しながら。
珍しく人の気配のない道を十分ほど行った時のことだ。
雑木林の斜面に自生する植物の種類を調べていると
脱兎のごとく転がる丸い影が目の前で大の字に広がった。
(正確にはのびて気絶していたのだが)
はじめは犬だと思ったそれは
よくみればたぬきだった。

見て見ぬふりをして死なれては夢見が悪いと
しばらく介抱してやる。
変な病気や寄生虫を持っていたらいやだなと
思っていると突然飛び起たそいつは
しきりに後ろ足を気にしていた。
(二足歩行をしていたから単に『右足』でもいいのだけれど便宜上ここでは後ろ足で)
罠にでもかかってしまったのかって
持っていたペットボトルの水(以下、クリスタヴォルヴィク)を投げてやると
ちいさな顔や短い手の全身で追いかけて
つかみ損ね
池の縁に落ちたそれを拾って
器用にキャップを捻り開けると
浴びるように飲み干す。
人間とは違う口の構造的に
比喩ではなく本当に頭から浴びていた。
それからたぬきは鼻先に到達しかねないほど深いシワを眉間につくって
アメリカ人みたいにおおげさに肩をすくめてから
「取引相手に報復されたのさ」って。

最近は葉っぱをお金に換えても偽造防止の技術が発達して
自販機ひとつ騙せやしない。
だから投機やリスクヘッジの意味合いで
《テロりすト》なるものに銃弾を密売してた。
もちろんこの国じゃ所持することも
銃砲刀剣類所持等取締法に抵触するから
銃弾(実包)そのものは時間が経てば葉っぱに戻る細工をしたうえで、ね。
そこまで説明して
たぬきは不敵な笑みを浮かべた。
元に戻った葉っぱにはどんぐりや道知辺(ミチシルベ)(※2)
金縷梅(キンルバイ)(※3)の花びらと
キンクロハジロの糞に似た
植物の種を包んであるのさ。
クマドリ(※4)の顔の模様を真似て施した化粧の変装で
いかにも怪しかったそいつは
宮崎駿(※5)ばりの好々爺の古だぬきだった。

pararararararararararararararararararararararararararararararrrrrrrrrrrrrrrrrrrr
rrr...

言葉をすべて弾に変え
焼き切れるまで嗄れ果つるまで
映るすべてを撃ち尽くすまで
自動小銃小脇にかかえて
お前はAK-47な、ななな
俺はIMI社製のGalilっと
おっとっと
弾倉から
夢やら希望が零れ落ち
大匙いっぱいの命が今日も死ぬ
朽ちた果実と合成樹脂の
おおきな花に添えられた墓標の上で
また新しい命が落ち葉とともに降り積もる
何もかもが許せるのなら
そのまま墓標を
埋めておくれよ
そしたらまた
だれとも知れない墓標の上で
だれとも知れない
腐れる先から匂う臓物
一つひとつを蒔き散らす
お前と遊べる
俺とお前が死んだなら
また
だれとも知れない
だれかとだれかが
戦舞する
千切られた
血肉を掻き集め
ながら
端(は)のない節を捩じる円環
表裏のつかない自我の上
弾倉に残る
希望のかたちをしたそれを込め
踊る踊る 踊れ
後ろ足を引き摺り
ながら

隠花は
   種を蒔き散らし
  鮮やかに
 駆けていく
チアノーゼ色に
  溺れる翼果が
 浮き上がる
廻る光の鎮静に
  旋回する
 忌枝の
鳥葬

少女は花を間違えて
花は間違いを間違える
いつしかおおきな花となり
空白は鮮やかに咲き誇り
いつも花は少女を間違える

傷む骸に悼みをしつらへ
花の眠りに痛みをつたふ

ひかりのなかを静けさが昇っていきます。花のゆるやかな(性質としての)傾きが射影を発熱させて、座標のひとつとしてたたえています。見知らぬ空の内側をやさしく綰(たが)ねて撚りあわす、痕跡としての色彩をひかりのゆるしに埋(うず)めていきます。夜を伝う形状のさ青の海に飽和する記号は嘴に融け、翳の群生に紛れる影は記号のひとつと、さ青のなかを昇っていきます。

 花が咲いていた
知らない花弁の
知らない時刻の
知らない場所の
知らない彼等の
知らない原子の
知らない空白の
知らない化石の
知らない色彩の
知らない隙間の
知らない構造の
 構造を知らない
 隙間を知らない
 色彩を知らない
 化石を知らない
 空白を知らない
 原子を知らない
 彼等を知らない
 場所を知らない
 時刻を知らない
 花弁を知らない
花が咲いていた



うぅるいあそびにあいたなら
しまいにゃだまっこぬうちまう
そんうちみぃんなやってきで
よりみつつうでのわるかごの
みんとぅちとおめにわらはでみえた
せこはかわるぅにさそはでくった
みんとぅちとおめにわらはでみえた
せこはかわるぅにさそはでくった(※6)

はぁ、っとため息をつくだけで
誰かが傷つく
言葉ならなおさらに
マイノリティに忖度してから
臭い言葉は抹殺しよう
厠にトイレはもう臭いから
w/cにしちゃえばいい
cでwを割れば
他者性の内臓が露わになって
赤くて白くて黒くて甘くて
臭い言葉は
抹殺しよう

parararararararararararararararararararararararararrararararrrrrrrrrrrrrrrr
rrr...

ばとかが禁止になります
しとねが禁止になります
じとさとつが禁止になります
つとんとぼが禁止になります
つが被っちゃった
えとたとひとにが禁止になります
きとちとがといが禁止になります
しとじとんが禁止になります
しもじもんもぜんぶ被っちゃった

pararararararararrarararrararararararararrrrrrrrrrrrrrr
rrr...

パンダを殺せ
お前らの考えてる
それじゃない
マスコット的マスカット
イチゴのレモンを殺せ
形而上の概念の
器のない白と黒
マスカット的レモンを貪る
イチゴのマスコット
たぬきを殺せ

parararararrararrrararararrrrrrrr
rrr...

赦せないのか?
許しているよ

知ってるだろ?
疑っているよ

良い天気だろう?
贈り物をしろよ

車内で ふたり
 互いの 両手
冷ゆく 熱を
奪い 合いながら
未来に ついて
語り あった

星について話をしていた
星をめぐる物語について
夜明けの星が波打ち際に
打ち上がるその時刻まで

parararararrararrrarararrrrrrr
rrr...

あなたの面倒臭さは
       永劫回帰ね
おまえの顔面は
  一回性の連続だろ

parararrarrararrarararrrrr
rrr...

ふたりの距離を測ってみようよ
時間と速さの関係で
この線の延長上には
永遠がありまーす
ここからそこまで紛争地帯
補助線、引いちゃった
まじめにやれや
点と線を結ぶことなく排列すると
反転した鳥たちが
永遠を反芻しているよ
モールス信号?
ひゃあ、ひゃあ、って
左におおきく流されて
関数とかわっかんねぇ
未来にながされていくよ
過去へ、じゃないのか
うみかぜの匂いとさざなみの音
Pとかdをぜんぶさらって
途中式は省略するのか
空間が時間を再生するように
  ひゃあ、ひゃあ、
 ひゃあ、ひゃあ、
って
点と線を結ばない最短距離の沿面に
ああ、鴎が塒(ねぐら)に帰っていくよ

違うよ

嵐がきたんだよ

pararararrarrarararrrr
rrr...

前提を違える二人の永遠に
真実の愛など訪れないね

pararrrarrrrrr
rrr..

分離した剥き出しの
春は何処までも音色だったから
主旋律を忘れてただ響きあう

pararrrrrr
rrr..

pとaも禁止

rrrrrrr
rr.

量子化されることを嫌う
流れる体液は赤白黄緑黒紫と
雑じり気ばかりの感情に
変圧と分光を繰り返す遠心性の
340.29 w/cの回転数で

rrrrr
r.

それはまだ春が春になりきる前の
足の痛みに出力されて歌うたぬきの話
早朝の大気と音と光のなかを
一切の音を盗まれたようにして歩けばあらわれる
転がるように移ろう季節と同じ回転速度で
転がって来るたぬき
時折こちらを振り返り
目と目が合えば
肩をすくめる
二人(一人と一匹)の間のわずかな距離に
どんぐりが点、点、点、と落ちていて
足元には実包型のキーホルダーが落ちていた
腰を落として土を払って
視線を上げた時にはもう
たぬきはいない

ロアナク・アリアロ・デリーサ

太陽は
海を残して
行ってしまった(※7)

rrrr
r.

後ろ足で
びっこをひく
春は
四散する片割れを
追いかけながら

そんなことを考えながら
月曜の早朝の
光のなかを歩いていけば
聴こえてくる
忘れさられた
古い響きの
遊び歌が

rrr
r.










rも禁止










※1 子供が河童に水のなかに引きずり込まれて死んでしまう、というよくある妖怪伝説

※2 野梅系のバラ科サクラ属 梅、らしい
   バラなの?サクラなの?とかわざと言いたくなる

※3 キンルバイ、マンサクとも マンサク科の落葉小高木
   早春に咲くことから、「まず咲く」「まんずさく」が
   東北地方で訛ったものともいわれている

※4 自作の空想上の動物 日本の固有種 鳴き声の発声法が独特
   感情が昂ったときや悟ったときに体の動作を止め
   首を大きく回してから睨む、そんな習性をもつ

※5 言わずと知れた日本のアニメクリエーター 

※6 自作の遊び歌

※7 ランボー「永遠」のオマージュ