ええ、大好きなあの子たちは
ひとりのこらず卒業していきました
あの子たちとの出会いは
わたしが大学を卒業したばかりのころ
たずねていったのは駅前の大きな病院
一時間もまえから
ベッドで待っていたかれらと
さっそくはじめの授業でした
えんぴつでおおまかな輪郭をとり
うすい色から順に彩色していくときは
『先生、やるじゃない、』
とはげますようだったのですが
『やすむ暇をあたえないで、
ぼくらには時間がないんだ、』
そんな風に言っているように思えたのです
そこでわたしは、授業ごとに
宿題を課すようにしました
それも意地がわるかったけれど
なるべく時間のかかる宿題を
休みが終わるでしょう
するとひとりのこらず
誇らしげに宿題を提出するのです
『すべてがおじゃんになるかもしれない、けれど
ぼくらはあしたのために宿題をするんだ、』
そんな声が聞こえるのを感じたのです
ええ、あの子たちは卒業し
やがてひとり残らず亡くなりました
すべてがおじゃんになったかもしれない
けれどあの子たちがみていた
あしたはたしかにあって
はるか先へつづいている
わたしたちを追い越して
ずっとずっと先へ進んでいるのだと
わたしは思うのです
もうすぐ桜の咲く季節
大好きなあの子たちがあつまるころです
選出作品
作品 - 20180205_288_10229p
- [佳] 宿題 - 岡田直樹 (2018-02)
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宿題
岡田直樹