錆びた月光が差し込む夜
利き目にはモノクロームのネガ
反対の目に赤銅色が映りこんでる
窓辺で蝕の暗い赤が凍みる
シーツはあなたの匂いでいっぱい
さっきまで
当たり前の冬が柔らかく含まれ溶けていた
私はあなたを焼き付け続け何枚も記録した
今夜は脳裏をウィスキーが埋めてゆき
やがてひとりの時間に冷めていく
やけに虚しい
、、
ざわざわ這い上がり首筋から
締め上げてくる熱が額に集まっている
薄暗がりにあなたがいる
何度唇を合わせても
何かが足りない
埋めて埋めて繰り返しながら
あなたの顔を見つめても
何も言葉にならない
未熟な私の戸惑いを
あなたの瞳は射抜く
汗をかきながら
私は震えて呻いてしまう
*
自ら蝕んだ今と過去
を縫合して思いに潜っても
ざらついた自分は直ぐには変われない
それでも赤く月が上り始める晩には
理性を剥ぎ取る思いに抗えない
、
窓辺から月が薄く照らす寝室で
あなたの肋骨をさぐりメスで切開し剥離し
開いた胸に露わになった脈打つ心臓
の無垢な赤
開胸器から己のささくれた手で触れたら
あなたの命の喜びを中心で握る
押し込めた思いを切り裂いて放り投げ
あなたの白い肌を流れる青に変えよう
喉の音が掠れうっすらと滲んでくる赤は
私の悲鳴ともあなたの死とも分からない
闇に炎を昇らせてあなたを求めたら
私の中で輝く表情がうれしい
、、
私は今夜再びあなたを
白々と開けるまで解剖する
あなたの全てを知りたい
あなたの謎を全て開いてみたい
欲望を抱いて私はメスを握る夢を見る
最新情報
選出作品
作品 - 20180124_973_10200p
- [優] 月蝕より - 伊藤透雪 (2018-01)
* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。
月蝕より
伊藤透雪