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作品 - 20180103_422_10147p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


在ることの領域

  霜田明

さよならを言う前に
ぼくらはいなくなってしまうんだね

  愛は与えることにはなくて
  受け取ることにしかなかった

ほんとうはその向こう側をみていた
明日のことや来年のこと

明日という扉をぬけられれば
永遠になれるとさえ思っていた

    「ふたり」になるためには
    その関係を脱け出して
    俯瞰することが必要になる

    その脱け出しの架空性だけ
    「ふたり」であることは架空である

僕がしようとすることと
実現出来ることの間には薄い皮膚がある

それが僕にとっての不安だった
世界はすぐそばにあったのに
ほとんど不可能なことが世界を遠く感じさせた

  愛は与えることにはなくて
  受け取ることにしかなかった

    愛は振る舞えないことの場だ
    何もできないことの領域だ

さよならを言う前に
ぼくらはいなくなってしまうんだね

  僕が僕の可能性を信じることを
  信じて振る舞うことの領域を
  寂しさの領域と呼ぶことにした

  僕が僕の不可能性を信じることを
  信じて受け入れることの領域を
  優しさの領域と呼ぶことにした

  僕はそのふたつの領域にまたがっている
  寂しくなったり優しくなったりする
  その振幅の
  暮らしのなかで
  
    寂しさの領域にも
    優しさの領域にも
    対象喪失は存在する

さよならを言う前に
ぼくらはいなくなってしまうんだね

  主体は世界と共に在る
  主体が切り離されているのは
  世界からではなく万能性からだ

    在るということは不可能だった
    でも在ることが可能にかわるという
    向こう側の領域において
    僕らは在ることができるようになった

    それは優しさにも
    寂しさにも触れられない
    在るということ自体の領域

    ぼくらは在ることが許されている
    振る舞うことが禁じられている

     (向こう側を信じることが
      存在することの陰だった)

    与えることも
    受け取ることも
    諦めたときに
    在るということがわかる

        その本質は
        きっと「死」なんだ

      愛は与えることにはなくて
      受け取ることにしかなかった

  ほんとうはその向こう側をみていた
  明日のことや来年のこと

  明日という扉をぬけられれば
  永遠になれると信じていた

さよならを言う前に
ぼくらはいなくなってしまうんだね

  僕はそのふたつの領域にまたがっている
  寂しくなったり優しくなったりする
  その振幅の
  暮らしのなかで

文学極道

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