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作品 - 20171218_070_10105p

  • [佳]  団栗 - 田中恭平  (2017-12)

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団栗

  田中恭平

 
溜息は
複雑を
シンプルにして
ひとつ吐かれる
ふたつ
吐かれたところで
聖なる


鳴る
栄光の
鍵を
聖なる
重たい
鐘に
刺し込む

きみは芽吹き
潮を吹き
よく
整頓された
このベッドルームは
初春である
わたくし

団栗を
弄っている
団栗は
陰茎の
比喩

ない
ただ
団栗を
手で
弄んで
いるだけだ
そして物になった
きみと
貝になった
きみと
語り合って
ついには互い
泣き出してしまう
ありがとう
ごめんね
高らかに
杯をあげようとすれば
きみは貝から人間に戻る
ひととき
おかしな
空気が
流れている
それは
換気扇、
の向こうから流れてきている
まるでミルクのような匂いで
まるで家庭的なので
ぞっとしてしまったが
きみは別段
鼻炎で気付かないのか
何か言っていたのは
俺だけだった
TELで

を押して
電話は
受付に繋がって
退出時刻を告げると
このベッドルームの出口に
入金の機械があるから、
そこに入金を済ませて出なさいという旨
告げられ
俺は「わかりました」と一言だけ告げて
気持ちいいものを
自然に戻して
集めた団栗を
木の下に返して
ふたり外へ出た
気持ちいいものを
自然に返すのは
なかなか難しいことに
外に出て気付いたが
きみは
慣れているようだった
ただ鼻炎が酷いらしく
何回も
ティッシュで
かいだ鼻は赤くなっていた
ゴーン
ゴーン

聖なる鐘は
俺の頭痛となって
しろい息は
益々多く出て
俺は路上に座り込み
少し嘔吐した
きみから
ティッシュを借りて
口を拭うと
握りしめていた
聖水で
口を濯ぎ
二回かけて吐いた
吐いたところには
聖水を
かけて、立ち去った
まるで烏になったような気分
だとして本当に烏が一羽
近くへ下りてくると
きみは
怖い
と言った
アイツくらい俺は醜い
と俺がいうと
きみは
大丈夫?
まだ調子悪い?
と訊いてきたので
一年で363日は調子が悪い
と応えて
懺悔した
烏に
どうか無事に
わたくしと
この娘を
帰して下さい
日が
まだ残っていたので
日にも
願った
どうか
僕を
救って下さい、
彼女は
なぜ僕が
笑ったように泣いているのか
知っているようで
それが怖かった
ぐんぐんぐんぐん
歩いて
マツモトキヨシで
タクシーを
呼んだ
待っている間
雨のように
団栗が落ちてくる
妄想に
うたれ
奥歯をガチガチ言わせていた
何より外は寒かった
彼女は着ぶくれしていた
団栗は
急速に芽吹き
木になり
マツモトキヨシの駐車場一帯が
森となり
野犬に怖れ
僕は
両耳を
手で塞いだ
森の中を
一台のタクシーが走ってきた
ふたり
タクシーに乗り込み
僕は
みっつめの
溜息をついた
T病院まで行って下さい、
と告げて
きみは寡黙なままで
窓の外の
町の灯り
そのころには
もうとても
外は薄暗くなっていたので
町の灯りを眺めながら
眼を
きらきらさせていた
その
きらきらした眼が
好きだった
T病院に着くと
お互い財布から
タクシードライバーに
千円ずつ出し
きみがお釣りは?
というから
いいよ、
というと
きみは
ありがとう
と言った
どういたしまして
と応えて
きみが去った後
僕は病院に
ズカズカと入っていき
トイレの洗面所の水で
頭をひたした
特別な罪、

何も
あしあとを
残しませんようにと
ポケットに入っていた
一粒の団栗を
ゴミ箱に捨てながら