印象は
セミの幼虫の記憶となり、
背を割り、
伐採された木々を想う。
闇に反りかえり発芽する、
ちぢれた、
アルビノの身を垂らす。
鉄パイプの骨組だけを晒す、
碧い宵の空に露出した、胡瓜畑のビニールハウス
と
涼やかな夏祭りの夜店、
眩しい白熱電球のもと、つらつらと壁に並ぶ
妖しいプラスチックの面。
それは
幼少期のイマージュであり、
生命力にあふれる、
無限とじかに続いていた自分の価値であった。
児は机を丁寧に拭き、
未完成である作文や
未完成な自画像、
真新しいシャツにこめられた親の情念を並べ、
できあがった無限の印象を、
児の個人的世界を、
リコーダーと一緒に密閉すべき鋼鉄箱に入れる。
封印されたイマージュを
灌木の生えた校舎敷地内の暗い地中に。
頬のふっくらとした、まるい手をした、
もしくは忘却は、
記憶の楽園に棲む者たちの残り香であり、
掘りおこされたとき、
心の奥、深くにしみいる。
忘れ去った意思を、学習ノートの紙面に見つけ、
時の量を、
消耗された自分の夢をみいだすのであろう。
選出作品
作品 - 20171204_818_10075p
- [佳] 物質と記憶 - 深尾貞一郎 (2017-12)
* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。
物質と記憶
深尾貞一郎