とくとくと途切れない雛鳥の鼓動について
無垢な夕闇と電波の悪い話をする
温かな臓器をおさめた柔らかな腹の上で
金色に光っていたうぶ毛も
今は感触だけを残し
薄い輪郭は静かに上下して
お前の優しい声を思い出す
柔く撫でる手のひらの重力
その為に月は満ち欠けを繰り返す
打ち上げられた鯨の骨の中で揺られながら
煌めく砂礫に埋もれる偶蹄類の夢をみた
乾いた音を立てて崩れていく残骸の始まり
捨てられたものに残る熱を
宝物みたいに扱っている
冷めたらただのゴミ屑に成り下がる
僅かな時間に野良猫のような愛を囁く
退屈しのぎに見つめ合った鳥は線を引いて錆びた森に帰った
白々しいほど美しく
灰色に映る月明かりは沈黙している
雲は次々に死んでいく
眠りの浅瀬で瑞々しく横たわるお前を静かに反芻する
滑り落ちる魂を転がしてその跡を愛おしむ
消えない光が遠くなっていくのは
関節が外れていくからだ
ひたひたと溢れる窒息しそうな水溜まり
そこに満天の星空が落ちているので
幾つもの星に届いてしまった
かつて一滴の冷たい雨を温めた手
遠くの海の底に沈んでいく痩せた老犬は少し白濁して消える
黴臭いシーツの上で分厚い本を開き同じ頁を繰り返し捲っている
お前はこんなに饒舌なのに
文字は蝶となって飛び立っていく
「気はとうに狂っていた」
耳元で呟かれた羽ばたき
ちらちら光る埃が絡みついて歪んだ天井の染みに張り付く
痣のようなそれに触れたいと思った
選出作品
作品 - 20171114_336_10031p
- [優] 放熱 - 游凪 (2017-11)
* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。
放熱
游凪