焼け爛れた腹の底から礼を言うよ
(否定──、黙認、馬鹿野郎ふざけるな、という怒号
キャンディを舐めている
キャンディを
ミルキー・ウェイなキャンディで
気分宇宙旅行)
そして孤独
さびしいという感情を俺は知らない、
そもそも論さびしいがどういう状態を
こころの状態を指すのか、
俺は知らない
否──こころがわからない、そもそも論。) ガクッとオチる運転手
信号は赤
24時間、信号は赤
なーんだ、心臓か苺のことですか 週刊誌をめくる運転手
俺はフレディ・マーキュリーの動画を眺めている
すると
口のなか、一杯に練乳が放出されて耐えられなくて出しちゃった
(ごめん! 誰に謝っているんだろう、すいません! この罪悪感はどこからくるの?)
死んだ木を奏でていると、自分が多重化する、
ひとりがふたりになる
右と左になる
保守と改革が牽制しあって、ギターは奏でられる
フィ―――ド、バック・ギター!!
「兄ちゃん、なんやそんなけったいなもんもって、田舎じゃまるでチャカやがな」
タクシーが赤信号に飽きて発進
僕らはトラックにぶつかって粉々に砕け散った、
路傍に放り出される苺たち。私の死んだ国で買ったんだった、私の死んだ国で、俺──
兎だった。
人間の言葉?を、話せる虎達に食われてしまった兎だった。絶命の瞬間思い出した、
絶命の瞬間が、一番浄土に近いからか、色々なことが解ってはすぐに死んでいく。
(大学で哲学を専攻しつつ「脳病になる」といって辞めた正岡子規は晩年
それこそ死期が近づいたとき、あのときのわからなかった哲学がまっさらわかった、
と言ってのけただか、書いたりしていたそうである。参照先はない。参照なんてつける
偉く見せたがり屋じゃ、俺はない。)
なんの話だっけ?
そう、俺には臨死体験が三度ある。
仏に好かれる身を持ち辛い。
一度目は、時速三十キロの道を六十キロで飛ばしてきた自動車に轢かれた。
自転車は粉砕し、僕はスローモーションで中空を飛んだことを覚えている。
その日のデートは行けなかった。長い髪のあの娘の肌は白くて夜に栄えていた。
その透明性に触れることなく、ふられてしまった。果実。果実のように恥ずかしい。
二度目はK寮にいたとき、ジャック・ダニエルを半分飲んで眠ったのだが
煙草の火をしっかり消したのかどうか忘れた。夢のなか、僕は幽体離脱していた。
K寮は豪快に燃えていたので、嗚呼、これ死んだわ、と思った。
目を覚ますと、いつもの天井だったが、もうこれ以上酒を飲むのはやめようと考えた。
冷汗をかいていた。部屋の壁中が汗をかいていたのだ。煙草も濡れていたが今でも辞められない。
三度目の臨死体験は、過酷なギョーカイに入って不眠症になりながらも激務をつづけたことで、統合失調症の起因は多分このケースだと思う。三日眠れないで、三日眠れないと死ぬと思っていたが、医者には行かなかった。精神科の「せ」の字も知らなかったし、まさか自分が狂っていっているなんて信じられないくらい元気だったから。花が小指のようにうつくしかった。公園に向かい、一晩中花を見つめて過ごした。幻覚は道の起伏からはじまり、気づいたときには町全体が波打っていた。ドラゴンの地下活動だった。パートナーが田舎まで俺を送り届けてくれた。新幹線の中で俺ははっきりとヤハウェを見た。僕はあの町を去ることでドラゴンの地下活動は終わる、やった、俺は町を救ったんだ、と感涙の涙と笑顔でパートナーに「愛してる」と告げた。
彼女は黙ったまま何も言わなかった。
何の話をしているんだ?
本当の霊能力者、宮沢賢治さんとの魂の邂逅、家の北東のクーラーの中に住んでいる鬼の小僧、隠密、中島らもの幻影、南無阿弥陀仏に悪人正機説、ニルヴァーナの海賊版のライヴ版CDコレクション、carinという名の小さなギター、グッド・ウィル・ハンティングのDVD、磁場がおかしい場所に建っている家、スクラッチ音、ほったらかしのジャック・ダニエル、おくすりカレンダー(全然使っていない!!)、パートナーとの朝晩二回のTEL、ペロスピロン、タスモリン、リボトリール、それから労働。馬鹿だと思われたくないので何も喋らないで黙々体動かしてもうすぐ一年。最近出たラッキーストライクの新しい青い煙草良くね?アイコスいいけど高くね?
の、
中で僕は言葉を紡ぎつづける。
ストレス、
ストレスを食べて、
正しく体を壊してゆく、
反対、
ストレスに耐え、
正しく体を鍛えてゆく、
バランスだといえばそうだが
分裂とも言えそうだ、
星、
田舎から観る星はいいぜ。
夕焼けは都会人の絶命の赤い血なのさ、
凝り固まったその魂が星なのさ、
墓ばかりある
墓ばかりある
デイサービスばかりある
(サニーデイサービスばかりある、CDラック、クラック)
まるで人生のロードマップ
今走り抜けている道路そのものが人生じゃないか
原チャに乗ってる、
待ち侘びたTEL、
鳴らないBell。
次の一行の冒頭が俺の直感で
それにつづくフレーズが俺の理性だ、
スカッド、
スカトール、
便器に首を突っ込んで死ぬまで、
書きつづく、
涙に強く、
タフに、
しかしどうしようもなく脆弱なままで、
竹がしなって、
何か失って、
気づかないで。
忘れないで。
ほしかったのか
また言葉を書いている、
ここに一つの携帯がある。
きみの着信があった、
携帯がある。
きみを目覚めさせる為に、まずは僕が目覚めよう。
選出作品
作品 - 20171002_395_9932p
- [佳] #09(回想タクシー) - 田中恭平 (2017-10)
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#09(回想タクシー)
田中恭平