選出作品

作品 - 20171002_393_9931p

  • [優]  記憶 - 深尾貞一郎  (2017-10)

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記憶

  深尾貞一郎

 
高い、空は、
海に浮いた、油のよう。
熱の
残る路に、トンボが、ポッと落ちる。
オニヤンマの複眼に残る、
うねりを帯びた敏捷さで、
丸い小金虫らが、クヌギの老木に群れる。
ふりむいたお母さんが、
四枚の薄羽根をひとつまみに、笑う。
僕はオニヤンマの歯ぎしりしている牙を凝視する。
鮮やかな黄色の胸の浮き出た筋肉は、
森の静寂さを気づかせる。
免疫細胞のように虹は
水銀や、コバルトブルーを食べる。
虹は、今、炎になった。
目をつむれば、

オニヤンマの複眼に残る、
うねりを帯びた敏捷さで、
丸い小金虫らが、クヌギの老木に群れる。
トンボの、輝きに触れたくて
紙飛行機のように、空にかざす。
心に、
はじけるものがあり、樹液を
手につけて、
匂いを部屋に持ち帰ろうと、思う。
とり残されてしまった気がするから、
今はもう、道路脇の縁石の上、
ステップを踏みながら、唐突に、
走り出す。坂を越えて、
シャボン玉の内側に、この世はあって、
川を越えて。ぶーうぅーん。
空は頭上にだけあって、木々の隙間に刺しこむ虹に
向けて、群れは飛んだ。ぶーうぅーん、ぶーうぅーん。
ざわめく、アメジスト色が、
無数にうつる
太陽は、どこを探しても見当たらず、
空全体が、夕暮れのように、
羽音と、発光している。
羽音が、