高い、空は、
海に浮いた、油のよう。
熱の
残る路に、トンボが、ポッと落ちる。
オニヤンマの複眼に残る、
うねりを帯びた敏捷さで、
丸い小金虫らが、クヌギの老木に群れる。
ふりむいたお母さんが、
四枚の薄羽根をひとつまみに、笑う。
僕はオニヤンマの歯ぎしりしている牙を凝視する。
鮮やかな黄色の胸の浮き出た筋肉は、
森の静寂さを気づかせる。
免疫細胞のように虹は
水銀や、コバルトブルーを食べる。
虹は、今、炎になった。
目をつむれば、
オニヤンマの複眼に残る、
うねりを帯びた敏捷さで、
丸い小金虫らが、クヌギの老木に群れる。
トンボの、輝きに触れたくて
紙飛行機のように、空にかざす。
心に、
はじけるものがあり、樹液を
手につけて、
匂いを部屋に持ち帰ろうと、思う。
とり残されてしまった気がするから、
今はもう、道路脇の縁石の上、
ステップを踏みながら、唐突に、
走り出す。坂を越えて、
シャボン玉の内側に、この世はあって、
川を越えて。ぶーうぅーん。
空は頭上にだけあって、木々の隙間に刺しこむ虹に
向けて、群れは飛んだ。ぶーうぅーん、ぶーうぅーん。
ざわめく、アメジスト色が、
無数にうつる
太陽は、どこを探しても見当たらず、
空全体が、夕暮れのように、
羽音と、発光している。
羽音が、
選出作品
作品 - 20171002_393_9931p
- [優] 記憶 - 深尾貞一郎 (2017-10)
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記憶
深尾貞一郎